作者: 特許部日本語チーム (专利部日语组)

前回に続き、中国知識産権局専利復審委員会による2015年の復審無効十大判例の審決の概要と解説を行う。

8、「携帯電話(100C)」に関する意匠無効審判事件

意匠番号:ZL201430009113.9(CN302873818S)

意匠権者:深せん市佰利営銷服務有限公司

無効審判請求人:アップルコンピュータ貿易(上海)有限公司

審決結果:権利維持

判例の概要と意義:

本案は、アップルの中国現地法人が請求人となり、中国現地企業の有する意匠権に対して無効審判を請求したものである。請求人は30件近くの引例意匠、鑑定機関による意匠権評価報告書に加えて、委託した市場調査会社が通行人に対して行ったアンケート調査結果を「某携帯電話の意匠認識状況調査報告」として提出した。  本案では、意匠の判断主体である「一般消費者」の解釈が争点となり、合議体は以下の判断を示した。

意匠権の権利有効性の判断主体について、専利審査指南の規定では、判断主体としての「一般消費者」は、係争意匠の出願日前の同一又は類似する製品の意匠及びその通常の設計手法について常識的な理解を有し、さらに意匠製品の形状、模様及び色彩上の相違点について一定の識別力を有するが、製品の形状、模様及び色彩の微細な変化には注意が及ばない、とすべきであるとされている。つまり該判断主体と日常生活における普通の消費者とは同じ意味ではなく、該調査報告におけるインタビュー対象者は、部品会社が街頭でランダムに選んだ一定の条件を満たす通行人であり、日常生活における普通の消費者に属するので、必ずしも専利審査指南に規定する判断主体に対応する知識能力を持つわけではなく、携帯電話類製品の従来意匠の状況についてもそれほど深い理解を有しない。

また、判断客体について、意匠権の保護範囲は、図面又は写真における製品の意匠に基づくべきで、対比判断を行うとき、係争意匠の製品の外観を判断対象とし、形状、模様及び色彩から生じる全体の視覚効果を考慮すべきである。調査報告の対象者は街頭の通行人であり、必ずしも対応する図解能力を有するわけではないので、それにより得られた判断結果の参考価値を確認するのが難しい。

上記の判断から、合議体は報告書を審決の根拠とすることができない、とし、結果としては権利維持の審決をした。

合議体がこのように「一般消費者」について厳格に判断したことから、アンケート調査報告を類比判断の参考資料とすることは大変難しいように思われる。一般消費者の条件を満たす適切な対象者の設定が困難であるほか、いつ出願するか分からない相手側の意匠出願日前を時期的な基準としなければならないためである。

参考) 係争意匠の図面

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9、「装飾キャビネット(6102-173)」に関する意匠無効審判事件

意匠番号:ZL201430429543.6(CN303065438S)

意匠権者:北京皇家現代家具有限公司

無効審判請求人:上海銘軒家具有限公司

審決結果:権利維持

判例の概要と意義:

本案は、請求人が証拠として提出した1件のキャビネットの図が、左右両面の形状等や、上部平面の形状等が示されておらず、対比する意匠の具体的なデザインを推定できないとして、最終的には権利維持とされたものである。本案において争点となったのは、請求人が提出した「ネット上の資料の印刷物」の証拠の扱いであった。

請求人は、無効審判の証拠として、以下の2点を提出した。

(1) CAMILLO国際家居がネットで発信した宣伝資料の印刷物

(2) 福建中証司法鑑定センターが出した司法鑑定のコピー

さらに、請求人は、証拠調査収集申請書を復審委員会に提出して、深せん市Tencent計算機システム有限公司へ、微信(英語名:WeChat。Lineに似た中国版SNS)パブリックIDユーザ及び一般ユーザが、パブリックプラットフォーム上に資料をアップした時間を変更することができないことを確認するよう求めた。

これに対し意匠権者は、証拠1は微信パブリックプラットフォームに発信した文章で、その内容は企業がパブリックIDを利用したビジネスの宣伝・プロモーションの一部であり、それがプラットフォームそのものであるかプラットフォーム上の文章内容であるかに関係なく、いずれも独立性、客観性、権威性及び安定性を有さないため、係争意匠が従来意匠に属することが証明できない、と主張した。

審判の口頭審理では、合議体が提供したコンピュータを用いて、微信の文章検索を行い、証拠1の文章タイトルを入力したところ、タイトルと概要を含む検索結果が表示され、検索結果は証拠1のURL情報と一致した。該当ページをクリックしたところ、「該内容は発信者により削除されました」と表示された。また、コンピュータを使って確認したところ、証拠2のディスクには証拠1が示すサイトの内容が含まれていた。

合議体は、本案に関連する別な審判の口頭審理で、インターネットから証拠1の該サイトの内容を取得できたため、証拠1が示す情報がインターネット上に存在したことを客観的に確定できる、とした。また、合意体は、以下の判断をした。

(1)微信パブリックプラットフォームはTencentが微信パブリックIDユーザに対し提供するサービスプラットフォームであり、中国の大型インターネット総合サービスプロバイダーとしてTencentは信用度が高く、システム環境は安定して信頼性が高く、管理メカニズムも規範的である。

(2)微信パブリックプラットフォームの使用については、微信パブリックIDは一度取得するとそのID管理者は情報発信に責任を負うが、発信時間はシステムで自動生成されるので、文章が一度プラットフォーム上に発信されると、ID管理者は削除操作しかすることができず、その他の権限を有さない。従って、意匠権者が逆の証拠を提出しなければ、微信パブリックプラットフォーム上で発信した文章と発信時間は直接の関連があると考えるべきである。

(3)証拠1は家具会社の広告を示しているが、パブリックプラットフォームで発信された後、該パブリックIDを購読するユーザはその内容を閲覧でき、また、微信検索機能により検索してその具体的な内容を閲覧できる。このことから証拠1は不特定の人々に知られるため、証拠1が示す文章は、発信すると専利法上の公開を構成する。

筆者は、今回の証拠の認定は、これまでの証拠の真実性に関する厳しい運用と比べると、意外に思える。このような認定が今後も続くのであれば、例えば証拠のタイムスタンプを得る目的で微信パブリックプラットフォームを用いるなど、証拠の収集・保存について様々な利用の可能性が生じるように思われる。

参考) 係争意匠の図面

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