徐静、張超 King & Wood Mallesons

2020年9月、最高人民法院、最高人民検察院は商業秘密に関する司法解釈を二部、正式に公布した。

①「最高人民法院による商業秘密民事侵害事件審理の法律適用に関する若干問題の規定」(http://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-254751.html

②「最高人民法院、最高人民検察院による知的財産権刑事侵害事件処理における具体的な法律適用若干問題の解釈(三)」(知的財産権刑事司法解釈(三)、http://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-254891.html

2020年6月10日に公布された意見公募草案と比べると、商業秘密民事事件の規定の名称は、元の「解釈」から「規定」と変更され、内容的には、商業秘密民事事件の規定(以下は「規定」と略称)は、個別条文の用語、表現を調整、細分化したとともに、「最高人民法院による不正競争民事事件審理における法律適用若干問題の解釈」(2007)に規定された商業秘密に関連する規定を取り入れた。その改正のポイントは以下の通りである。

  • 「規定」の第2条には、2007年解釈の第2条の「顧客が従業員個人に対する信頼に基づきその従業員が所在する従業先と取引をした場合、同従業員が離職後、顧客が自発的に当該従業員及び当該従業員が所在する新たな従業先と取引する場合、当該従業員は不正な手段を採用していないと認定すべきである」の規定を取り入れたとともに、「従業員は前の従業先と別途約定がある場合、この限りではない」の但し書きを削除した。
  • 意見公募草案第8条の、「不正競争防止法(2019年改訂)」に規定された立証責任の分配の関連規定、及び第28、29条の、「民事訴訟法」及び関連司法解釈に規定された管轄の関連規定を削除した。
  • 意見公募草案第12条の、商業秘密の合法的占有者が故意または重大な過失により他人に獲得され披露を構成する行為に関する規定を削除した。
  • 意見公募草案第19条の、公共利益、犯罪制止のため関連機関に商業秘密を披露する場合の侵害責任免除の関連規定を削除した。
  • 意見公募草案第21条の、保全措置を申し立てる際に権利人が商業秘密の具体的な内容を明確化する規定、第22条の保全措置を解除する関連規定を削除した。
  • 意見公募草案第30条の、中国法院が商業秘密案件を審理する際に中国法律を適用する規定を削除した。
  • 意見公募草案第1条の、商業秘密が全体の技術案、全体の完成品又は経営活動に占める割合、役割等の要素に基づき侵害賠償金額を決定する規定を削除した。
  • 「規定」第13条(意見公募草案第14条)に「被疑侵害情報は商業秘密の用途、使用態様、目的、効果等と実質的な差異があるか」を増やし、法院が被疑侵害情報と商業秘密が実質的同一であるかを判断する際の考慮要素の一つとする。

2020年6月17日に公布された意見公募草案と比べると、知的財産刑事司法解釈(三)の商業秘密に関連する条文は主に以下の改正が行われた。

  • 違法にコピー、許可なく又は許可を超えてコンピューターシステムを利用する等により商業秘密を窃取する行為を窃盗行為とする。
  • 商業秘密侵害罪になる侵害額の下限を従来の50万人民元から30万人民元まで引き下げた[1]
  • 意見公募草案第6条の、商業秘密が全体の技術案、全体の完成品又は経営活動に占める割合、役割等の要素に基づき侵害賠償金額または違法所得を決定する規定を削除した

以上の司法解釈は、2020年9月12日、2020年9月14日よりそれぞれ施行された。正式に公布された「規定」は中国の第一部である全面的、体系的に商業秘密に関する司法解釈であり、中国の法院が商業秘密民事案件を審理する際の法律適用の統一を促進する。二つの解釈には、商業秘密権利人に有利な規定が多く盛り込まており、特に商業秘密侵害罪になる下限額は50万人民元から30万人民元まで引き下げられ、権利人が成功に権利を守る確率が大いに向上され、商業秘密侵害及び犯罪への打撃が大きくなると見られている。

[1]最高人民検察院、公安部が2020年9月17日に公布した「商業秘密刑事事件の立案追訴基準を改正する決定」において商業秘密侵害事件の立案追訴の金額基準が同じく30万人民元まで引き下げられた。