著者:徐静 张超(知识产权部)

 

 

 

金杜チームは、クライアントのシーメンス社を代理して高圧可変周波数ドライブに関する特許侵害事件において、権利侵害製品の実物を提出しなかった場合、書面による証拠のみにより権利侵害に認定するよう裁判所を成功に説得するとともに、損害賠償の訴訟請求も全額支持された。本事件は、実物の挙証に不便な大型工業設備に関する特許侵害認定に、参考の価値のある訴訟策略を提供した。

金杜のクライアントであるドイツのシーメンス社(本事件の原告)は、工業、インフラストラクチャー、交通及び医療健康の事業にフォーカスするテクノロジーカンパニーである。シーメンス社は、その可変周波数ドライブ製品に「中性点シフト」という新規技術を使用し、この技術は、数多くの国において、本事件で主張された特許(係争特許)を含むシーメンス社の特許により保護されている。蘇州匯川技術有限公司(被告)がその公式サイト及び取扱説明書に、権利侵害と訴えられた高圧可変周波数ドライブ製品に「中性点シフト」の技術(被告が「非対称バイパス技術」と称する)を採用したことを宣伝し、係争特許の図5aと全く同じ模式図を利用してこの技術を説明し、特許侵害の疑いがあることは、2017年末、シーメンス社に発見された。協商が成功しなかったため、シーメンス社は2019年3月に蘇州市中級人民法院まで提訴し、損害賠償600万人民元を主張した。

本事件が係る高圧可変周波数ドライブは典型的な工業製品であり、通常工業の高級応用として、例えば鉄鋼、電気、石炭及び化学工業などの業界の企業に使用されている。これらの可変周波数ドライブは値段が高く(単価:数十万~百万人民元)特定のクライアントに販売されている。これらの原因により、低圧可変周波数ドライブのように大量に市販されておらず、原告は本事件で権利侵害と訴えられた製品を購買して実物を裁判所まで提出する挙証が極めて困難である。これについて、パブリックチャネルから、権利侵害と訴えられた製品の取扱説明書、被告が公式サイト及び定期刊行物に投稿した文章などを含む書面による証拠を収集するしかできない。権利侵害と訴えられた製品への被告自身の説明を通じて権利侵害と訴えられた製品が係争特許の保護範囲に入る可能性が高いことを証明する。しかし、実物の証拠がない場合、書面による証拠のみをもって権利侵害に該当すると認定できるかは、本事件の最も重要な係争焦点の一つである。

本事件において、被告は、原告が提出した文章及び取扱説明書はただ被告の商業宣伝に該当し、権利侵害と訴えられた製品に実際に採用された技術案を忠実、完全に反映することができないため、侵害対比に用いられないことを、主張した。これについて、一審裁判所は、「現行の法律は、権利侵害と訴えられた製品の実物しか侵害判定できないことを明確に規定しておらず、検証用の製品の実物がないとしても、現在の証拠から権利侵害と訴えられた製品に実際に採用された実施形態を客観的、忠実に反映できれば、訴えられた技術案として権利侵害かの判定に用いることができる。公式サイト及び公衆メディアで権利侵害と訴えられた製品及びその技術案への被告の説明は、関連製品の詳細な実施形態を忠実に反映したことを推定すべきである。」と認定した。被告は、権利侵害と訴えられた製品の提供者として、消極的な抗弁のみを行い、如何なる挙証もしていないため、その抗弁は一審裁判所に認められなかった。最高裁判所知的財産法廷は、二審中、一審裁判所の観点を認め、更に、実物をもって検証を行うことは権利侵害と訴えられた技術案を究明し侵害対比を行う有効な手段の一つのみであることを指摘した。つまり、実物を侵害対比に用いることは侵害判定の唯一の手段ではないといえる。

原告が提供した書面による証拠に基づいて、被告が権利侵害と訴えられた製品の技術案を説明したとき係争特許の実施例を示す図5aと全く同じ図を使用した。一審裁判所は権利侵害と訴えられた製品が係争特許の保護範囲に入ると認定し、原告の600万元の損害賠償訴訟請求を全額支持した。最高裁判所知的財産法廷は、2021年末、第一審判決を維持した旨の(2020)最高法知民終1593号民事判決書を下した。

典型的な特許侵害事件において、特許権者は、通常、権利侵害と訴えられた製品の実物証拠を裁判所まで提出するか、実物を現場検証、調査するよう証拠保全を裁判所に申請することで、請求項に対応する権利侵害と訴えられた製品の全ての構成要件を究明する。しかし、大型工業設備の特許権者にとって、公証購買して実物を裁判所まで提出する方式により挙証することが極めて困難であるか、実行性がない。最高裁判所の上記事例が示す規則は、このような挙証困難の問題を解決するには有利である。新しい挙証ルールが特許権者に提供され、即ち、権利侵害と訴えられた製品の実物を購買できない場合、書面による証拠を十分に収集して権利侵害と訴えられた製品が権利侵害になる可能性が高いことを証明し、挙証責任の転換規定に基づいて権利侵害人に不利な推定を下すことを裁判所に請求することができる。一方、権利侵害人の場合、原告が挙証責任を全て負うという従来の観点に固執されず、事件状況に応じてより積極的な挙証策略を取る必要がある。