作者:邰红 陈文平 葛永奇 谌侃 袁元

知识产权部 金杜律师事务所

译者:郭煜

要約:バイオテクノロジー分野の発展は著しく、特許出願件数は急激に上昇している。中でもCAR-T、ゲノム編集、コロナウィルスワクチンは、臨床価値が極めて高いことや、疫病の突発的流行への対応などの理由で、注目される分野となっている。社会倫理等の考慮すべき複雑な要素や、技術発展がより速く予測可能性がより低いことから、バイオテクノロジー分野にはより多くの特殊性が存在する。この特殊性は、現在の特許審査において、審査の政策や審査基準の比較的迅速な変化に現れている。本分野の審査基準の動態的変化を、適時且つ正確に理解し把握することで、出願人(または特許権者)は特許権を順調に取得、維持し、合法的権益を保護することができる。本レポートは、明細書の十分な開示、請求項のサポート及び進歩性という三つの視点から本分野の審査審判の動向を分析し、その分析に基づき、対応する戦略及び提案を提示するものである。

キーワード: バイオテクノロジー ゲノム編集 CAR-T コロナウィルス ワクチン 十分な開示 サポート 進歩性

一、序文

近年、バイオテクノロジーは医療応用の面で続々と突破口が現れており、CAR-Tに代表される細胞療法及びPD-1に対するモノクローナル抗体薬物はいずれも、大きな成功を収めるとともに臨床に用いることが認可されおり、先進的ゲノム編集ツールの発見も、遺伝子治療に黎明前の曙光をもたらしている。これらはいずれも、現在のバイオテクノロジー分野研究において注目の的となっており、巨大市場が見込まれることから、国内外の大手の伝統的医薬企業及び新興医薬企業が競って研究開発に力を入れている。疫病の突発的流行は、人類の生命と健康を著しく脅かしており、悪性伝染病に対する最も有効な手段として、目標を定めたワクチンの開発は一刻の猶予も許されない。ワクチン開発の最大目的は人類の生命と健康を守ることであるとはいえ、そこに巨大な商業的利益が含まれることは否定できない。出発点が何であれ、ワクチン、中でも激しい呼吸器系伝染病を引き起こすコロナウィルスに対するワクチンは、研究開発においてもう一つの注目の的となっている。今日に至るまで、急激に発展するバイオテクノロジーは、人類の生活のさまざまな面に深刻な影響を及ぼし、それらを変えてきた。バイオテクノロジーはすでに、国際科学技術の競争、乃至は経済競争の重点となっている。

成熟し整った特許制度及びその合理的運用は疑いなく、バイオテクノロジー分野の急速かつ良好な発展の大きな力となる。特許制度は研究開発成果を保護することで、革新を行った主体の研究開発投資に市場の占有によって報い、その結果、さらに科学研究の積極性を刺激し、革新を促す。バイオテクノロジーは急速に発展しつつあり、科学研究成果は絶え間なく現われ、中国の特許制度も日々改善され、知的財産権保護の力は日増しに強くなっているとはいえ、バイオテクノロジー分野の革新主体がこの制度をより効果的に利用するには、中国特許審査の動向を把握し、科学研究成果がその技術貢献に見合う特許保護を確実に得られるようにする必要がある。以下、特許審査データ及び典型的な案件を基に、バイオテクノロジー分野、中でも注目される一部の分野の特許出願及び審査現況を分析し、これに基づき、相応の特許出願保護の戦略及び提案を示す。

二、データに基づく中国特許出願及び審査現況

ここ20年来、バイオテクノロジーの急激な発展に伴い、本分野の我が国における特許出願件数も急増している。特に、重要な医療またはその他の応用の先行きに技術的突破口が得られたとき、または例えば疫病の流行により予防/治療方法もしくは薬物が急に必要になったときに、それに対応する注目の技術において、特許出願件数が激増する状況が発生している。

1、国内バイオテクノロジー分野の特許出願及び審査状況

図1

2001年より、バイオテクノロジー分野の中国的特許出願件数は線型性の上昇を示しており、現在までに公開された特許出願件数は約270,000件であり(2019年と2020年の出願件数の下降は、大量の出願が未公開でデータが取得できないため)、2019年の出願件数は30,000件超、2020年の出願件数は32,000件程度に達することが予想される(図1参照)。

直近5年のバイオテクノロジー分野の特許出願審査状況を考察したところ、2015年から現在まで、大量のバイオテクノロジー分野の特許出願が未だ結審されていない(68.54%を占める)。結審した特許出願のうち、有効特許の割合は59.7%、失効特許出願の割合は40.3%である。5年以内に授権された特許については、放棄により失効した割合が比較的低く、主に拒絶または取り下げと見なされたことによる失効であるため、2015年から現在までのバイオテクノロジー分野の特許出願全体の特許率は約60%である。

バイオテクノロジー分野の全ての特許出願において、約2.44%は拒絶され復審手続きに移行しており、そのうち48.69%は拒絶査定が維持され、51.31%は拒絶査定が取り消されている。約0.07%の出願は特許権を付与後に無効審判請求が出されており、無効決定の種別の比率については、全部無効が42.83%、一部無効が21.84%、維持有効が35.24%である。

2、CAR-T関連特許出願及び審査現況

2007年に免疫学者Michel Sadelainがキメラ抗原受容体T細胞療法(Chimeric Antigen Receptor T-Cell Immuno therapy,CAR-T)を最初に提示してから、近年、治療効果が著しく業界に認知されたため、大手製薬会社は新型細胞療法の研究開発に次々と参入している。2017年7月31日、ノバルティス社の遺伝子治療療法—— CAR-T細胞薬物Kymiriah(tisagenlecleucel,CTL-019)が米国FDAに承認され市場に出回るようになり、再発性または難治性の小児・青少年B細胞急性リンパ性白血病の治療に用いられており、PD-1薬物の市場投入に続き、腫瘍免疫治療分野における、もう一つのマイルストーン的意義を有する重要な突破口となった。その後10月18日に、FDAはKite制薬のYescarta(axicabtagene ciloleucel,KTE-C10)を承認し、この薬物は成人びまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者の治療に用いられている。FDAが続けて二つのCAR-T療法の市場投入を承認したことで、CAR-Tは瞬く間に生物医療における注目の的となり、これにより国内外のバイオ製薬会社は、競って特許の構成・布陣を行うようになった。

図2

2010年以前、CAR-T分野の中国特許出願は皆無であったが、2011年にようやく出現し、2015年以降、出願件数は急増の兆しを示し、CAR-Tは一躍注目の出願分野となった。現在までに公開されたCAR-T関連特許出願は946件である。特許出願の公開の遅れにより、2019及び2020年の大量の出願が未だ公開されていない。図示した増加傾向に基づけば、2019年の出願件数は300件超であると推測される(図2参照)。今後も一定期間は、本分野の出願件数は高い水準を維持すると予想される。

図3

CAR-T療法は最近になってようやく医療での注目の的となったため、個別の大手医療企業が早くから特許の布陣を敷くという状況にはなかった。このため、多くの新興企業、特に国内の企業や科学研究所も技術研究開発に力を入れ特許を出願しており、これは特許出願件数において、より分散的な情勢として現われている。図3は、出願件数が9件以上の主要出願人の分布を示す。ここで深圳賓徳生物技術有限公司の出願件数が最も多く60件に達している。

2015から現在までCAR-T分野の特許出願は、その大部分が未だ結審しておらず、これらは87.30%を占める。結審した特許出願中、有効特許の割合は82%、拒絶または取り下げと見なされた特許出願の割合は18%である。5年以内に授権された特許については、放棄により失効した割合が比較的低く、主に拒絶または取り下げと見なされたことによる失効であるため、2015年から現在までのCAR-T分野の特許出願の特許率は約82%であると推測される。バイオテクノロジー分野の全体の特許率60%より高いのは明らかであるが、その原因は恐らく当該分野の関連研究が比較的少なく、関連する革新的成果のほとんどが新規性・進歩性を有するため特許されたからである。

3、ゲノム編集関連特許出願及び審査現況

CRISPRに代表されるゲノム編集技術は1990年代初めに発見され、他のゲノム編集ツールより優勢であることから、まもなく人類生物学、農業及び微生物学等の分野で最も通用するゲノム編集手段となった。しかしながら中国の特許出願件数を見ると、2001年から20年間の特許出願の約3600件は多いとは言えず、2011年以降になってようやく急速に増加し始めている。原因としては恐らく、ゲノム編集技術には潜在的且つ重要な医療的価値があるものの、オフターゲット問題について未だ有効な解決がなされていないため、人々が最も注目する臨床応用分野では、倫理的・技術的リスクが明らかに高く、短期的に明るい見通しが立たないためである。2018年には社会的に注目されたゲノム編集関連の事件が発生し、当該技術にさらに多くの公衆の視線が集まった。

図4

CRISPRに代表されるゲノム編集技術は臨床応用に際し、倫理上及び技術上の制限が多く、未だに、大手多国籍医療企業も含めどの企業も、多数の特許の布陣を敷いていないことに原因があるのかもしれない。当該技術に関する特許出願の出願人は比較的分散しており、主に国内の各大学及び科学研究所であるため、その特許出願におけるゲノム編集の応用場面は基本的に、人への臨床応用とは関係がない。

図5

2015年から現在までの多数のゲノム編集特許出願は未だ結審していない(83.73%)。結審した特許出願中、特許率は約69.8%、拒絶または取り下げと見なされたものは30.2%であり、特許率は同様に、バイオテクノロジー分野の全体の特許率約60%より高い。

4、コロナウィルスワクチン分野の特許出願及び審査状況

コロナウィルスワクチン分野の全体特許出願件数は多くない(600件未満)。年平均出願件数も基本的には二桁に収まっているが、出願情勢はコロナウィルス流行の発生及び持続と明らかに相関している。例えば、2003年に発生したSARS流行により、2003~2004年の特許出願件数は明らかに増加し、SARSウィルスが効果的に制御されるのに伴い、出願件数も再び減っていった。2012年に発生したMERSウィルスにより、その後数年間、特許出願件数は再び増加期を迎えた。2019年に発生したコロナウィルスにより、2020年のワクチン特許出願は再び明らかに増加し、ほとんどの出願が未公開であるにしても、2020年の出願件数は2019年の出願件数に対して倍増した。したがって、コロナウィルス感染の予防または治療に関する特許出願件数が、2020年に大幅に上昇することが想像でき、さらに今後数年間は高止まりすることが予測できる。

図6

現在、コロナウィルスワクチン関連の特許出願の出願人についても同様に比較的分散しており、国内出願人は中国疾病予防控制中心、復旦大学、第二軍医大学等科学研究所及び一部のバイオテクノロジー企業であり、国外の出願人にはワイス社を含む複数の多国籍製薬会社が含まれる。

図7

2015年から現在までの多くのコロナウィルスワクチン特許出願は、未だ結審していない(87.42%を占める)。結審した特許出願中、特許率は約75%、拒絶または取り下げと見なされたものは25%であり、特許率は明らかにバイオテクノロジー分野の全体の特許率約60%より高い。