著者 徐静 知的財産部 金杜法律事務所

2020年7月27日、最高人民法院は「最高人民法院による法律適用統一化のための類似事件検索を強化する指導的意見(2020年7月31日より試行)(以下、「指導的意見」又は本意見として省略)」を発表した。類似事件検索のメカニズム完備は、2019年最高人民法院が発表した「人民法院の第五の五か年改革綱要(2019-2023)」の第26項に挙げられた法律適用の統一化メカニズムの完備の具体的な措置の一つであり、近年来、最高及び各級人民法院は類似事件の検索メカニズムを積極的に模索している。「指導的意見」の試行は、裁判尺度の統一化、訴訟当事者の法律適用結果に対する予測可能性には積極的な意義を有する。

「指導的意見」の概要

14条からなり、要点は以下の通り。

  • 類似事件の定義(第1条)

類似事件とは、審理する事件と基本事実や争点、法律適用問題等において類似しており、人民法院による裁判が発効した判例のことをいう。

  • 類似事件の適用範囲(第2条)

人民法院が類似事件検索を適用する事件は以下の四種類、①専門的(裁判長)裁判官会議又は裁判委員会に議論するよう提出予定のもの、②明確な裁判規則を欠如するまたは統一的な裁判規則がないもの、③法院院長、裁判廷長が裁判の監督管理の権限に基づき類似事件検索を求めるもの、④その他の類似事件検索が必要なもの。

  • 検索の範囲及び方法(第4、5条)

検索の範囲は効力の等級の順に以下の通りである、①最高人民法院が発表した指導的判例、②最高人民法院が発表した典型判例及び裁判発効した判例、③所在省(自治区又は直轄市)の高級人民法院が発表した参考判例及び裁判発効した判例、④上級人民法院及び本法院による裁判発効した判例。指導的判例の外、法院は過去三年の判例を優先的に検索する。検索方法には、キーワード検索や、条文関連判例検索、判例関連検索等が含まれる。

  • 類似事件の識別及び対比(第6条)

担当裁判官は審理の事件と検索結果を識別・対比し、類似事件かを確定する。

  • 検索報告書又は説明(第7、8条)

類似事件検索が必要な判例につきましては、担当裁判官は合議廷による評議、専門(裁判長)の裁判官会議による議論、及び、裁判報告における説明をし、又は専門的な検索報告書を作成し判例包袋に入れて調査に供する。説明又は報告には、類似事件の裁判の要点や類似事件を参照した分析等が含まれる。

  • 結果の運用(第9条)

検索した類似事件が指導的判例の場合、新しい法律法規及び司法解釈と衝突し又は新しい指導的判例に入れ替えられる場合を除き、人民法院はそれを参考にし裁判する。その他の種類の類似事件の場合、人民法院は裁判の参考とし得る。

  • 裁判官の応答(第10条)

「指導的意見」には、人民法院は、当事者、訴訟代理人が弁論理由として提出した類似事件については応答すべきであると規定されている。人民法院は、指導的判例については裁判文書の推論部分に参照したか及びその理由を説明し、その他の類似事件については、釈明の形で応答し得る。

  • 法的差異の解決(第11条)

類似事件と法的規則が一致しない場合、人民法院は、法院の等級、裁判日、裁判委員会の議論を経たか等を考慮し、「最高人民法院による法律適用差異の解決メカニズム建立の実施弁法」等の規定にしたがって、解決し得る。

論評

中国が成文法主義の国であり、伝統的には、判例が司法裁判に果たす役割が限定的である。近年来、最高人民法院は、裁判基準を統一化し、同じ事件に異なる判断がないように先行の判例の司法裁判における指導的役割の果たしに努めている。この度、発表された「指導的意見」は最高人民法院が判例を重視するもう一つの重要な措置であるとうかがえる。「指導的意見」は、法院の事件裁判や裁判尺度の統一の立場から明確化した点が多いが、当事者にも、主張を支持するよう類似事件の検索結果を積極的に提出する機会も与えた。

詳細には、「指導的意見」は、類似事件検索の適用範囲、検索範囲及び方法、検索報告書又は説明及び類似事件と法的差異が存在する際の解決メカニズムを明確化した。複雑で新型の事件についての強制的検索制度は人民法院の裁判尺度の統一化に積極的な意義がある。同意見は、類似事件引用の効力等級、すなわち、「最高人民法院が発表した指導的判例→最高人民法院が発表した典型判例、発効裁判→省高級法院による参考判例、発効裁判→上級法院及び本法院による発効裁判」を明確にし、当事者に判例検索の明確なガイドラインを示した。また、同意見は、「最高人民法院による判例指導業務についての規定」の実施細則における指導的判例についての規定(第9-12条)にしたがうのに加え、指導的判例を除く他のものについては、裁判所が裁判の参考とし、当事者が提出したその他の類似事件については釈明の形で確認可能であると明確化した。

「指導的意見」はすべての民事、刑事、行政事件に適用するため、全種類の知財事件に適用可能である。知財事件の裁判は中国が早い時期に専門的裁判廷や判例指導といったような裁判尺度の統一化のための措置を取った分野の一つであり、類似事件の検索制度の実施は知財事件の裁判基準の統一化及び当事者の裁判結果についての予測可能性を一層強化することになる。

人民法院による類似事件の積極的な引用を促すよう「指導的意見」の規定に基づき当事者に以下の措置を提案する。

  • 判例が裁判に果たす役割を重視し、事件の代理において法律の規定のみならず類似事件の検索をして弁論観点を支持する。
  • 「指導的意見」に規定された類似事件の定義及び効力等級にしたがって判例を検索、提出する。審理される事件の基本事実、争点、法律適用を類似事件のと比較し、データベースを十分に活用し関連度が高い最高人民法院による判例を特定し、判例の等級の効力にしたがって提出するよう提案する。同時に、関連の法律法規、司法解釈及び同等な効力を有する後発関連判を全面的に検索し、提出する判例が「指導的意見」に規定された参考的価値を確保する。
  • 提出文書の書式、類似事件の内容のまとめ方、提出タイミング、意見の発表方式を含め、各地法院の類似事件の提出手続きに関する規定を積極的に検索する。例えば、北京知財法院は「北京知財法院の知財裁判判例の指導業務の実施指南」(意見募集稿)を発表したことがあり、同指南は先行判例の発見、提出、審理について詳細に規定した。当事者は審理を担当する法院の関連規定を検索、了解し、その要求にしたがってタイムリーに参考に供される判例を提供すべきである。