著者:徐静、葉万理
2020年7月12日、浙江省高級人民法院、浙江省人民検察院、浙江省公安庁は、「知的財産権刑事事件における法律適用の若干の問題に関する会議要旨」(浙高法[2020]83号、以下「要旨」と称する)を公布し、浙江省における知的財産権をめぐる刑事案件に関し、実務上論争となる問題について統一を図った。「要旨」は計15条あり、このうち11条は商標権侵害罪に関する。中でも参考に値する内容として、以下のものが挙げられる。
- 登録商標詐称の種類数量の認定(第2条):同一商品に対し、登録番号が異なる複数の商標が用いられている場合、一つの特定の商品ソースを指し示しているのであれば、二種類以上の商標を詐称したと認定すべきではない。
- 実際に使用されていない登録商標は、刑法上の保護を受けるか(第3条):実際に使用されていないと、混同、誤認が発生しないため、商標権者の実際の経営上の利益及び市場競争の秩序に対する損害は小さいことから、刑法により保護を行うべきではない。権利者は民事手続きにより救済を求めることができる。
- 合法的に授権されていない渉外OEM[1]行為は刑事責任が追及されるか(第5条):合法的授権がない状況に対しては、行為者の国外委託に対する審査状況、国外委託者から提供された商標を規範に沿って使用しているか、国内商標権者の商品が、係争商品の販売対象国で販売されているかといった具体的状況に応じて総合的に分析すべきである。国内の権利者の実質的損害が大きく、市場競争の秩序を乱し有罪の基準に適合している場合は、登録商標詐称罪として処罰することができる。
- 登録商標マークの違法製造罪、及び違法製造された登録商標マークの販売罪における、商標マークの数量算出方法(第7条):算出の際は、完全かつ独立使用可能な侵害マークを一つずつ加算して算出することができる。「要旨」の例示によれば、酒瓶1本の外装、フタ、瓶のラベルそれぞれに付されたマークは3件とみなし、同一のキャリアに複数のマークが印刷され独立して使用できない場合は、1件とみなさなければならない。
- 差し押さえられた侵害マーク貼付の半製品及び侵害マーク未貼付の完成品をどのように認定するか(第8条):当該2つの状況は通常、未遂と認定されるべきである。しかしながら、法律を回避するためだけに故意に分離したことを証明する証拠が存在する場合は、既遂であると認定することができる。
- 違法経営額の認定(第13条):「被侵害製品の市場中間価格による違法経営額の算出」は、他のあらゆる方法を試した後に適用すべきであり、また、行為者の具体的な販売段階に基づき決定すべきである。この方法を採用する場合は、価格認証機関に委託して認証を行わなければならない。被侵害製品において侵害製品に対応する型番がない場合は、最も類似する型番の市場中間価格により算出することができる。また、参考となる類似の型番または市場中間価格がない場合は、規格に合った同種の製品の市場中間価格に基づき算出することができる。裁判所は案件の具体的事情を勘案して総合的に認定する。
「要旨」の上記内容は、刑事事件において論争となる問題について明確な指針を与えている。「要旨」は浙江省内のみで適用されるとはいえ、「要旨」で挙げた問題には一定の普遍性が存在し、中国の他の地域で処理される刑事事件についても参考となる意義を有するとともに、商標権利者が権利維持戦略を策定する際の重要な指針となる。
[1] 注:渉外OEMとは、中国国内生産者が国外から委託を受け、国外の委託者の商標を貼付した製品を生産した後、中国国内では販売せず国外市場のみで販売する形態を指す。