成城 King & Wood Mallesons
今年国家知識産権局から公示された2019年度特許復審・無効十大審判事件のうち、機械分野に関わる事件が五件ある。これらの事件は、社会的影響が大きく、焦点となる問題が典型的であることから、十大事件として選出されており、これらの具体的な事件における国家知識産権局復審・無効審理部の判断は、将来の実体審査及び審判に対して大きな影響を与えるものと考えられる。とりわけ、類似の事件においてそれを援用・活用することもできると思われる。
ここでは、これら五つの事件の経緯及びその焦点問題を簡単に紹介する。
一、「旋回流乾式微粉炭気化炉」発明特許無効審判事件(無効審決第39289号)
特許権者:A社
無効請求人:王氏
特許番号: ZL201310556488.1
決定:有効維持
係争特許は、乾式微粉炭気化分野に関し、具体的に、石炭気化反応を利用して、低コストで直接燃焼すると汚染の大きい石炭をクリーンで高付加価値の合成ガスに変換する。従来の乾式微粉炭気化炉の炭素転換率が低いという欠点に対して、係争特許で提供される旋回流乾式微粉炭気化炉は、最も近い従来技術(引例1)に比べ、スラグ排出口の直径と反応室の直径の比を1:3~1:4に設置すること(相違点の一つ)により、スラグ排出口が塞がれないことが保証され、反応室内の乾式微粉炭の滞留時間が増加し、それによって炭素の充分な転換に有利となる。
本事件の係争焦点は、進歩性における技術示唆の判断にあり、具体的には上記相違点が別の引例に開示されたか否か及び当分野の公知常識に該当するか否かである。
上記相違点について、請求人は、引例2も同様に流動層反応器に関し、且つスラグ排出口と反応室の具体的な比を開示し、当業者が引例2を引例1に組み合わせることを容易に想到できると主張した。しかし、合議組は請求人のこの観点を支持しなかった。
合議組は次のように認定している。即ち、引例2は、原料供給方法とスラグ排出形態で引例1と明らかに相違し、反応器の内径とスラグ排出口の直径の比を設置する目的も係争特許と異なり、たとえ引例2には係争特許で限定された比が開示されたとしても、当業者は、これに基づいて、引例2を引例1に組み合わせることを想到できない。
上記相違点について、出願人は、引例2に開示された内容に基づいて、当分野の公知常識に該当するとさらに主張した。しかし、合議組は請求人のこの観点をも支持しなかった。
合議組は次のように認定している。即ち、反応室内の微粉炭の滞留時間を延長することにより炭素転換率を向上できることは、当分野で既知されたものであるが、滞留時間を延長する具体的な方法が数多く、従来技術ではよく反応室の構造又は長径比を変える方法が採用され、例えば、引例1において、反応室は上部が大きく下部が小さいという特定の形状を呈することが限定され、引例2において、反応器の高さ及び直径が特定の比率を満たすことが限定されている。また、請求人は、スラグ排出口と反応室の直径比を調整することで炭素転換率を向上することが当分野の公知常識に該当すると証明できる何らの証拠も提出していない。それに、上述した比率を更に1:3~1:4に調整することが当分野の公知常識に該当することについて何らの証拠も提出していない。口頭審理の際、請求人は、上述した比率の調整に更なる設計及び実験が必要であると認めたが、該比率調整の影響要素及び各要素の役割を果たすメカニズムなどを明確に説明できなかった。
合議組は、引例1に対する係争特許のもう一つの相違点が、従来技術に対して自明ではないことについて、類似する観点を持つ。
弊所のコメント:発明が進歩性を有するか否かを判断するとき、「特許審査指南」に記載されている「三ステップ法」に従う必要がある。特に発明の「自明性」を判断する際には、従来技術の技術案に対する「全体的な考察」に注意を払う必要がある。従来技術に技術教示が与えられるかどうかを判断する際には、それに開示された全体的な技術案を全面的に検討し、所属する技術分野、解決しようとする技術課題、全体的に採用された技術手段および取得した技術的効果を総合的に分析および全体的に把握する必要がある。次に、具体的な状況に応じて対応する技術手段の具体的な作用を判断することにより、客観的、公正的に進歩性を評価し、「後知恵」を避ける。
また、公知常識に対する判断ついて、相違点が公知の技術手段に該当するか否かを具体的に分析しなければならない。特に本発明が解決しようとする技術課題を考慮し、当分野の既知の理論であるため、ある技術手段も公知であると推定することができない。即ち、技術原理と技術手段との間に唯一の対応関係が存在しない。
また、公知されている事実や自然法則など証拠を提出する必要がない場合以外、無効請求人は公知常識の主張に立証責任を負うものとする。特に数値範囲を含む相違点に対する技術教示の判断については、通常当分野に常用された数値範囲が存在するか否か、及び該数値範囲と対応する範囲との関係、従来技術には如何に数値範囲を選択するかの技術教示が与えられたか否かを考慮する必要があり、且つ該数値範囲が奏する技術効果が従来技術に予見できる技術効果と一致するかどうかを考慮する。
二、「レストランシステム」発明特許無効審判事件(無効審決第41958号)
特許権者:A社
無効請求人: B社
特許番号: ZL200680037518.6
PCT公開番号:WO2007068426A1
日本ファミリー公開番号:JP2009519388A
決定:補正後の特許請求の範囲をもとに有効維持
係争特許はレストランシステムに関し、従来のレストランの人的サービスでは人件費と時間コストを費やすという技術課題、またはセルフサービスレストランにおいて顧客が自分で飲食物を受け取ることに利便性が欠如するという問題に対して、人件費を節約し、かつ顧客に便利なレストランシステムを提供する。その技術要点は、レール系で構成され、重力によって料理や飲み物を搬送する搬送系を含み、搬送系は作業領域からテーブルに接続され、調理仕立てや準備仕立ての料理、飲み物などの飲食物をレール上に置き、飲食物が重力によってレールに沿って滑り、顧客のテーブルに搬送される。そのため、店員が飲食物を運んだり、顧客が自分で飲食物を受け取ったりする必要がなく、従来のレストランシステムに存在する上記問題を解決できる。
本事件の係争焦点は依然として進歩性における技術示唆の判断にあり、即ち従来技術には、当業者が最も近い従来技術に基づいて係争特許の技術案を容易に得ることができる十分な示唆や教示が存在しているか否かである。
請求人は、補正後の請求項が証拠1、証拠2、及び公知常識の組み合わせに対して進歩性を有しないと主張した。しかし、合議組は請求人の該観点を支持しなかった。
合議組は下記のように認定している。即ち、確定された係争特許の最も近い従来技術である証拠1に対する相違点である「作業領域が少なくとも一つのレールを介して顧客領域の少なくとも一つのテーブルに接続され、又は接続可能である」によれば、係争特許の装置は重力によって料理及び/又は飲み物を顧客のテーブルに直接に搬送することができる。これによって、人件費及び時間コストを節約でき、しかも顧客のための利便性や快適性が損なわれることはなく、新しい食事パターンを提供し、顧客に斬新な食事経験をもたらし、飲食分野での機械構造の新しい応用を体現している。これで明らかなように、上記相違点は係争特許と証拠1の発明構想の間に根本的な相違が存在することを体現し、両者が実際に解決する技術課題、採用された技術手段及び奏する技術的効果がいずれも異なるため、引例1に基づいて係争特許の技術案は自明ではない。
弊所のコメント:本事件は、発明構想の進歩性判断における核心的な作用を表したと考える。合議組の観点から分かるように、本事件に関わる飲食分野における人的サービスパターンが該業界の伝統的なサービスパターンであり、たとえセルフサービスレストランでも依然として関連人的サービスが必要とされ、人的サービスを取り消し又は代替することができない。証拠1が提供した技術案も同様な問題が存在している。そのため、発明構想の本質的な相違によって、係争特許と証拠1の技術案の着目点に本質的な相違があり、解決しようとする技術課題、採用される技術案及び奏する技術的効果も異なる。
発明構想に、発明者が直面する技術課題を解決するために解決案を模索する過程で提出した技術改良の構想が反映された。発明創造が従来技術に対する貢献は、技術的手段の選択だけではなく、発明構想の提案にも反映される。本件の場合、特許権者は、飲食業界の伝統的な運営パターンの束縛を打ち破り、飲食業界において、伝統的なサービスパータンにおける技術課題を解決するための発明構想を革新的に提案した。これは、実際に、ある程度「特許審査指南」第2部分第4章第4.1節に紹介された「先駆的な発明」、即ち「技術史上前例のないまったく新しい技術案」の意味がある。
三、「押圧音を発生させるキーボードスイッチ」実用新案無効審判事件(無効審決第40870号)
権利者:A社
無効請求人1:B社
無効請求人2:伍氏
実用新案番号:ZL201621037804.X
同日提出された発明特許番号:ZL201610802371.0 (PCT公開番号:WO2018041270A1、日本ファミリー特許:第6578452号特許)
決定:有効維持
係争実用新案は、押圧音を発生させるキーボードスイッチに関し、メカニカルキーボードに適用され、薄型メカニカルキーボードでも同様に良好な感触が得られ、且つ押圧時に音を発生させることができ、薄型メカニカルキーボードの打鍵感及び打鍵音の問題を解決しユーザ体験を向上させる。
請求人1と請求項2は相次いで係争実用新案に対して無効審判請求を提出し、合議組は合併審理を行った。
両請求人が引用した従来技術に対する係争実用新案の相違点は、「ベース台上には、ガイド傾斜面が設置され、弾性部材の一端部はガイド傾斜面の真上に位置し、押圧ブロックはガイド傾斜面の側縁に位置する」ことである。該相違点に基づいて、請求項1が実際に解決しようとする技術課題は、ガイド傾斜面と押圧ブロックが協同でキーボードの弾性部材を叩いて音を発生させることである。
本事件の係争焦点は進歩性における技術教示の判断にあり、具体的には、上記相違点が当分野の公知常識に該当するか否か及び最も近い従来技術から改良の技術教示が与えられるか否かである。
合議組は両請求人の主張を支持しなかった。合議組は以下のように認定している。
即ち、該相違点が公知常識に該当するかどうかについては、それを技術案において理解する必要がある。相違点を技術案から離して、又は内在的関連性のある相違点を不合理的にばらばらの要素に分解し理解することはいずれも不適切である。本件の場合、上記相違点は、ガイド傾斜面と押圧ブロックが異なる部材に位置し、両者が協同で弾性部材の一端部に作用し、音を発生させる機能を実現することを限定している。そのため、上記の相違点は、ガイド傾斜面の設置位置の違いだけではなく、部材間の協同関係にもあり、且つ上記相違点が公知常識に該当することを証明する証拠もない。
該相違点に関し、従来技術から改良の技術教示が与えられるか否かについて、従来技術には、弾性部材の叩く位置が、上蓋以外、弾性部材を変形させ反発復帰してベース台を叩き、または弾性部材を横方向に変形させ反発復帰して押圧ブロックを叩くなどが開示されている。しかし、従来技術の技術案は、いずれも弾性部材が上蓋を叩くことを例にして、ガイド傾斜面が押圧ブロックの側面のリブの下に設置されるものである。従来技術には、弾性部材がベース台などの部位を叩く場合のガイド傾斜面と他の部材の配置方法が開示されず、ガイド傾斜面がベース台に設置されて押圧ブロックと協同する技術教示も与えられていない。
弊所のコメント:合議組が本件に対する審理は、上記2件目の「レストランシステム」事件と類似し、同様に係争実用新案の技術構想及び各従来技術の技術ルートを重点として考察したと考える。従来技術の技術ルートを正確に把握しなければ、従来技術が改良の技術教示を与えたか否かを正確に判断できない。
本件の場合、従来技術もメカニカルキーボードの薄型化及び打鍵音に関する技術案であるが、その技術ルートがいずれも「弾性部材が上蓋を叩く」ことのみに注目し、係争実用新案のような「弾性部材がベース台を叩く」ことではない。しかも、従来技術の技術ルートに従い、たとえ弾性部材の叩きによる音の発生の位置を変更することを考慮するとしても、当業者の合理的な予知とは、上記相違点に係る特定の構造及び各部材間の協同関係ではなく、依然として、ばねを変形させてベース台を叩く従来技術のような常用の手段である。
上記相違点が当分野の公知常識に該当するか否かの判断について、合議組の評価から分かるように、相違点の各要素を技術案から機械的に切り離れ単独に考察するわけではなく、技術構想の角度から一つの完全な技術手段として全体的に考慮しなければならない。本件の場合、上記相違点における各要素部材がいずれもよく用いられる汎用部材であるが、係争実用新案の技術案に基づいて各要素を組み合わせて叩く音を発生するための全体的な技術手段とする時、これらの要素が互いに孤立的ではなく、相互協同で薄型キーボードの音の発生という技術課題を解決し、従来技術に対する進歩性の貢献を体現した。
四、「多重回転子無人航空機」実用新案無効審判事件(無効審決第35449号)
権利者:A社
無効請求人:B社
特許番号:ZL201220686731.2
ファミリPCT公開番号:WO2014075609A1
日本ファミリー公開番号:JP2016505435A
決定: 全部無効
係争実用新案は多重回転子無人航空機の上下筐体の一体化構造に関し、多重回転子無人航空機の重要な技術に属し、そのパテントファミリーは米国にも侵害係争が存在している。A社とB社が、複数の多重回転子無人航空機の上下筐体の一体化構造の発明特許に関して、2015年から中国及び米国で専利大戦を始めた。2018年、A社とB社が米国で無人航空機技術に関し互いに「337調査」及び特許侵害訴訟を起こし、これらの専利係争が社会から広く注目を集めた。
本件において、係争実用新案が進歩性を有しないことを証明するために、請求人が「使用公開」に関する大量の証拠を提出した。
本件の係争焦点は、請求人が提出した各ネット証拠の真実性及び公開性に対する認定、及び証拠が達する証明基準を如何に認定するかにある。
請求人が提出した証拠のうち、2つ重要な証拠、つまり、証拠19と証拠12がある。
証拠19は、五つ部分のネット証拠からなり、第九回上海国際モデル展覧会に関する「使用公開」の証拠である。
証拠19-1:NetEase News Centerのニュースレポートのウェブページのスクリーンショット;
証拠19-2:S社のウェブサイト上、S社が該展示会に参加するモデル展示図のウェブページのスクリーンショット;
証拠19-3:「モデル中国フォーラム」であるネットユーザーが投稿した記事に関連するウェブページのスクリーンショット;
証拠19-4:「5iMXフォーラム」であるネットユーザーが投稿した記事に関連するウェブページのスクリーンショット;
証拠19-5:Youkuサイトの関連する動画ウェッブページのスクリーンショット。
証拠12は、dronevibesフォーラムであるネットユーザーによって開始された「Overlapping Propeller Designs」の討論及びフォローに関する内容
請求人は、証拠19によって2012年8月29日に第九回上海国際モデル展覧会にS社が本実用新案に係わる多軸無人航空機を展示したことを証明し、且つ証拠12に開示された内容で係争実用新案の進歩性を評価できると主張した。
上記証拠に対して、権利者が関連反証を提出してその真実性及び関連性を質疑した。
しかし、合議組は権利者の主張を支持しなかった。合議組は以下のように認定した。
即ち、証拠19のうち、証拠19-3、証拠19-4が係る「モデル中国フォーラム」ウェブサイトおよび「5iMXフォーラム」ウェブサイトは、当分野で一定の知名度及び信頼性を有するウェブサイトに属する。権利者は、該ウェブページに公開された記事の内容が虚偽であることを証明できる証拠を提出しなかったため、合議組は上記証拠に公開された内容の真実性を認める。
証拠19-5において、ユーザーがYoukuサイトにアップロードした時間は、動画がサーバーに入った時間を表す。アップロード時間はインターネットシステムによって自動的に生成され、アップロード時に公開するかどうかを選択できる。権利者が「アップロード時間は必ずしも公開時間ではない」という主張もあり得るが、それを証明するための対応証拠を提供しなかった。この前提で、アップロード時に動画が公開される可能性は、権利者が主張した公開されていない可能性より遥かに高く、つまり証拠19-5に記載のアップロード時間「2012年9月1日」が発表時間となることには高い蓋然性が存在している。
また、特許法における従来技術による公開には使用公開が含まれ、「使用公開」とは、使用による技術案の開示、または技術案は公衆が知りたいなら知り得る状態にあることを指す。権利者は反証7をもって、証拠19-3、19-4、および19-5に係る製品がS社によって展示されたものではないことを証明したが、上記製品がS社によって展示されたかどうかは、それらが出願日前にすでに公衆が知りたいなら知り得る状態となることに影響を与えない。
証拠12に関して、請求人は、関連フォーラムウェブサイトがドローン分野において一定の知名度と信頼性を有するウェブサイトおよびフォーラムであり、かつ公衆が上記ウェブサイトおよびフォーラムから情報を入手できることを証明するために一連の証拠を提供した。権利者は反証4をもって、関連フォーラムdronevibes.comの登録都市がトロントであり、登録国がカナダであることを証明することによって、証拠12が中国領域外の証拠であることを証明したが、該ウェブページが国内の公共ルートを通じて入手できることは、No.09920公証書によって証明された。特許法における「従来技術」とは、出願日より前に国内外で公衆に知られている技術を指す。したがって、係争実用新案の出願日前に、該フォーラムで開示された技術内容も特許法における「従来技術」の範囲に属する。
これに基づいて、合議組は、権利者が主張した上記証拠が真実性及び関連性を有しないという観点を支持しなかった。更に上述した証拠に開示された内容に基づいて、係争実用新案が進歩性を有しないと認定した。
弊所のコメント:合議組は請求人の主張を支持した主な理由は以下の通りである。
証拠19の「使用公開」の証明に関して、請求人は複数の証拠の組み合わせを提供し、異なる側面から証明しようとする同一事実を指し、単独証拠を使う場合証拠チェーンが不完全、不確実、または欠陥がある情況を回避した。このとき、複数の証拠が相互に確認し合い、完全な証拠チェーンを形成した。合議組は、高い蓋然性の証明基準に基づいて証明しようとする事実が成り立てると認定した。
海外のウェブサイトやフォーラムで公開されている情報については、国内の公衆は関連ウェブサイトやフォーラムの性質、規模、運営メカニズムなどについて理解が足りないため、その知名度と信頼性などを認定するには証拠の裏付けが必要である。一方、証拠の実質内容の真実性に対する考慮要素(例えば、真実性や公開時間など)は、国内のウェブサイトと実際に相違がない。
これで明らかなように、合議組はネットワーク証拠の真実性の認定について、本件におけるNetEase News Centerなどのような国内の信頼性が高いウェブサイトの場合、反証がなければ通常その内容の真実性が信頼できると推定する。本件における外国のフォーラムのような外国または信頼性が不確定なウェブサイトの場合、さまざまな要素(運営主体の性質、規模、知名度、利害関係、運営メカニズム、変更メカニズムなど)を総合的に考慮する必要がある。ネット証拠の公開時間の認定については、表示されたタイムスタンプが自動的に生成されるかどうかを考慮する必要がある。もしユーザーがファイル(例えば、本件の動画証拠)をアップロードするときに開示状態を選択可能なネットワークの場合、他の証拠を組み合わせてその公開目的を推定し、公開時間を総合的に判断しなければならない。
五、「コンタクトホールプラグ酸化物のくぼみを改善するための工程方法」発明特許復審事件(復審審決第185132号)
復審請求人:A社
出願番号:CN201710733227.0(既に特許査定された)
決定:拒絶査定取消し
係争出願は半導体チップの分野に関し、具体的には、3D NANDメモリ製造の関連技術である。
本件の拒絶査定において、審査官は、係争出願と最も近い従来技術である引例1との相違点が、主に「多層積層構造には化学的機械的研磨(以下、CMP)停止層が形成され、CMP停止層にはトップ選択ゲートカット層(Top Select Gate Cut Layer)が形成され、CMPにより過剰なトップ選択ゲートカット材を除去した後、コンタクトホールプラグ酸化物を堆積する」ことにある。該相違点について、審査官は、別の引例2において、CMP停止層を形成し、その上に機能層を形成し、その後機能層の過剰部分をCMPによって除去してから、CMP停止層を除去することが開示されると認定した。それに、引例2には、溝を形成し、その後、溝に酸化物を充填し、平坦化するという技術案が開示されているので、当業者が如何に溝に酸化物を形成するかという技術課題に直面したとき、引例2の技術案を採用することを容易に想到できるとさらに認定した。そのため、係争出願が引例1と引例2の組み合わせに対して進歩性を有しない。
本件の係争焦点は、進歩性審査における当業者の改良動機が技術教示の判断に対する影響にある。具体的には、(1)最も近い従来技術である引例1に対して改良する必要があるか否か;(2)引例2には改良の技術教示が与えられるか否か。
合議組は審査官の上記観点を支持しなかった。合議組は次のように認定している。
即ち、上記相違点に基づいて、請求項1が実際に解決しようとする技術課題は、異なるエッチング速度によるプラグ酸化物のくぼみを回避し、それによってコンタクトホールの縦断面の湾曲情況を改善することである。
引例1の技術案は、異なる工程で積層機能層が形成されることに関わらないため、異なる工程で形成された積層機能層により後続のエッチング速度が異なり、プラグ酸化物のくぼみの発生につながることを想到できない。したがって、引例1の技術案には係争出願に存在する技術課題が存在していない。
引例2は、STI技術に関するものであり、半導体メモリの製造に関わらない。引例2には、基板面に研磨停止層が形成されることが開示されているが、引例2における研磨停止層の作用は、後続の平坦化工程において、研磨停止層に形成される研磨バッファ層及び浅い溝内の絶縁材料が、異なる研磨工程を通じて形状補償効果が形成されることで、平坦化工程が完了した後、浅い溝内の絶縁材料の平坦性が比較的優れることである。そのため、引例2に開示された技術手段によって達する目的は、請求項1のCMP停止層を設置することを含む上記相違点の目的と異なる。これで明らかなように、引例2には本出願が解決しようとする技術課題に関わらず、該技術課題を解決するために採用される対応する技術手段の教示を与えていない。
弊所のコメント:半導体チップの製造分野などの比較的成熟した技術ルートの場合、現在技術ルートに対するの改良の多くは、具体的な工程詳細に対する改良であると考える。半導体製造工程では、技術者は製品性能の欠陥につながる技術課題に注目する。係争出願のような、上記特定の技術課題に基づいて対応する技術案を提出し、且つ上記相違点が、一連の連続工程に関し、各工程ステップが互いに関連し、対応する技術手段が互いに協力し、サポートする。そのため、進歩性評価では、上記3件目の「押圧音を発生させるキーボードスイッチ」と同様に、相違点の各要素(ここでは各工程ステップ)を技術案から機械的に切り離れ単独に考察してはならず、全体的に係争出願が解決しようとする技術課題を考慮し、且つ全体的に従来技術には改良の動機が与えられたか否かを判断する必要がある。