馬立栄、郭煜、王娟娟

金杜法律事務所 特許部

第四次専利法改正にともなって、中国国家知識産権局は専利法実施細則の改正案(意見公募案)を2020年11月27日に公開し、意見公募を行った。その改正に意見がある場合、2021年1月11日までに電子メール(tiaofasi@cnipa.gov.cn)又はファックス(86-10-62083681)にて提出可能である。

今回の実施細則改正の意見公募案には、専利法第四次改正に適応するための改正と実務の実際ニーズに応じるための改正が含まれている。以下において、今回の主な改正ポイントを示す。

一   意匠に関する改正

第四次専利法改正には部分意匠制度が導入されたため、部分意匠出願の図面についての要求等が規定されている。例えば、部分意匠を出願する場合、全体製品の図面を提出し、破線と実線の組合せ又はその他の形式で保護請求する部分を明示する(草案第27.2参照)。また、必要に応じて「簡単な説明」において、保護請求する部分を明記する(草案第28.3参照)。

第四次専利法改正において意匠の国内優先権制度が新設されたため、意匠出願の国内優先権の基礎出願は、意匠だけではなく、発明(注:特許該当)もしくは実用新案の出願まで拡大した(草案第32.2参照)。また、国内優先権を主張した場合、その基礎出願が見なし取下げとなるが、発明もしくは実用新案出願を優先権の基礎とする場合、この限りではない(草案第32.3参照)。

中国はハーグ協定に加入するため、実施細則の草案において、ハーグ協定に基づく国際意匠登録に関する第十一章を新設し、国際意匠出願の定義、出願日、発効日の確定等の規定を設けた。

関連規定によると、国際意匠出願は、直接WIPO国際事務局に提出してもいいし、国務院専利行政機関を通じて提出してもいい。国際登録日が確定され、かつ、中国を指定した場合、国際登録日は中国への出願日となる。国際公表後、国務院専利行政機関は国際意匠出願を審査し、拒絶理由が見つからない場合、保護決定をし、国際事務局に通知する。国務院専利行政機関は保護決定をした後、公告し、当該意匠権は中国で公告日より発効する。

中国は意匠について無審査主義であり、国際意匠出願制度を利用する場合、中国の公告前に国際公表されるため、出願人は実際のニーズに応じて使い分けする必要がある。

二   保護期間の補償に関する改正

第四次専利法改正の第42.2の規定に基づき、登録過程中の不合理な遅延に対する保護期間の補償を請求する場合、権利付与公告後3か月以内に専利権者が提出すべきである(新設第85の二参照)。また、実際に遅延された日数分を補償する。なお、新設された第85の三には、保護期間の補償の除外対象である出願人による不合理の遅延の態様、すなわち、①指定された期間内に国務院行政機関発行の通知書に応答しない場合、②遅延審査を請求した場合、③引用による追加の場合(注:優先権引用により出願書類の追加提出のことを指すと考える)、④その他、が例示された。

これにより、不合理な遅延に対する補償の適用除外対象や補償の請求時期、補償される期間が明瞭となった。

また、薬品の保護期間の補償に関する条件、適用薬品の範囲、保護範囲等が新設の第85の四~八に規定されている。関連条文によると、保護期間補償の対象である新薬の関連特許とは、国務院薬品監督管理機関が初めて上市承認した新薬の活性成分に関する特許のことをいう。補償期間=中国での上市承認日-特許出願日-5年。補償された期間内の特許の保護範囲は、当該新薬における国務院薬品監督管理機関が上市承認した新薬及びその適応症に限られる。

関連条文によると、薬品の保護期間の補償請求は、薬品上市承認日より3か月以内に提出し、かつ、満たすべき条件が挙げられた、①一つの薬品につき多数の専利権が存在する場合、専利権者はそのうちの一項についてしか保護期間補償請求できない、②一つの専利権が多数の薬品に係る場合、そのうちの一つの薬品についてしかその専利権の保護期間の補償請求できない、③当該専利権はまだ薬品の保護期間の延長を獲得したことがない、④期間補償請求される薬品の専利権の残りの保護期間は6か月を下回ってはならない。

また、保護期間の補償請求を審査し、拒絶理由が見つからない場合、延長決定をし、公告する。公告後、第三者は、期間補償の条件に適応しないとして無効審判を提起することが可能である。

三   開放許諾制度に関する条文の新設(第72の二~六参照)

新設の条文には、開放許諾声明の請求手続き及び請求内容に関する要求、開放許諾声明公告の要件、撤回手続き及び発効、開放許諾成立後の届け出登録手続き及び証明材料等が規定された。

これらの条文によると、権利付与公告された後、専利権者は開放許諾声明を提出可能である。専利権は共有に係る場合、声明の提出及び撤回は共有者の同意を得る必要がある。また、許諾声明にはライセンス使用料基準及び支払方法を明記する必要がある。

また、以下のいずれかに該当する場合、開放許諾声明が公告されない、①専利権が独占もしくは排他ライセンスの有効期間中であって、かつ、ライセンス契約は届け出登録された。②専利権の帰属に争いが生じ、もしくは、人民法院による専利権保全の裁定により中止となった。③年金滞納期間内にある。④専利権に質権が設定され、質権者の許可を得ていない。⑤その他の公告しない態様。

専利権者は声明を撤回する場合、撤回請求を提出する必要があり、撤回は撤回の公告日より発効する。

改正案には開放許諾を激励するための具体的な年金免除措置については、依然として言及していない。開放許諾制度を導入したドイツやイギリスにおいては声明を出した後半減されるが、中国においては、開放許諾声明により開放許諾が成立した場合、その実施期間中に年金が免除されると見られている。

四   行政による救済に関する改正(新設第80の一)

第四次改正の専利法第70条によると、国務院行政専利機関は全国に重大な影響を与える専利侵害紛争を処理することが可能であるとされている。どんな紛争がこの類の全国に重大な影響を与えるものになるかは興味深い点である。

実施細則の改正案は、例示により明示した、①公共利益に関わるもの、②業界の発展に影響を与えるもの、③地域に跨る重大事件、④国務院専利行政機関が自ら行政裁決すべきであると判断したもの。

当事者が関連事件の処理を国務院専利行政機関に請求し、しかしその事件が重大な影響に達してない場合、国務院専利行政機関は管轄権がある地方の専利管理機関に処理をするよう指定可能であるとさらに規定されている。

五 PCT国際条約と整合するための優先権引用による追加及び優先権回復に関する改正

関連条文によると、優先権期間が過ぎた場合、期限満了日より2か月以内で優先権回復を請求できる。また、出願時の優先権主張の書面声明を提出していない、もしくは主張に瑕疵がある場合、補正することが可能である。

また、出願人が出願提出日より2か月以内で優先権引用により発明や実用新案出願の請求の範囲もしくは明細書のいずれかを追加提出できる。

また、発明や実用新案出願には請求の範囲、明細書の一部内容が欠落した場合、出願人は出願提出日より2か月以内でもしくは指定された期間内で優先権書類を引用することにより追加提出できる。この場合、元の出願日は保持される。

六   その他

第四次改正の専利法第20条には、誠実信用原則を導入した。実施細則の改正案には、出願の捏造、偽造、盗用、寄せ合わせもしくはその他の不当な行為を誠実信用原則に違反したものと明示した。これは、低品質の専利出願を抑制するために導入したと見られている(新設第43の一参照)。

第四次改正の専利法第66条には、訴えられた侵害者は自発的に専利権評価報告書を提出可能であると規定されているため、それに適応するように、実施細則改正案には、実用新案もしくは意匠の登録が公告された後、誰でも国務院専利行政機関に専利権評価報告書を作成するよう請求可能であると規定される。請求受領後2か月以内で、専利権評価報告書が発行される。また、出願人は登録手続きをする際にも、専利権評価報告書の作成を請求できる。この場合、登録公告後2か月以内で専利権評価報告書が発行される。一旦評価報告書が発行されたら、誰でも取寄せできる。

以上の要点の外、実務に応じて出願人に便宜を図るための変更点も盛り込まれている。詳細は、リンク先https://www.cnipa.gov.cn/art/2020/11/27/art_75_155294.html(中国語条文対称版)をご参照ください。