李輝 龐淑敏
今年国家知識産権局から公示された2019年度特許復審・無効十大審判事件のうち、電気分野に関わる事件が二件ある。これらの事件は、社会的影響が大きく、焦点となる問題が典型的であることから、十大事件として選出されており、これらの具体的な事件における国家知識産権局復審・無効審理部の判断は、将来の実体審査及び審判に対して大きな影響を与えるものと考えられる。とりわけ、類似の事件においてそれを援用・活用することもできると思われる。
ここでは、これら二つの事件の経緯及びその焦点問題を簡単に紹介する。
一、「上りリンク信号の伝送方法」発明特許無効審判事件(無効審決第39900号)
特許権者:A社
無効請求人:B社
特許番号:ZL200880112278.0
決定:有効維持
係争特許は、移動通信技術分野に関し、特に、LTEシステムにおける上りリンク信号の伝送案に関するものであり、ACK/NACK信号及びそれ以外の制御信号をそれらの優先順位にしたがって効率的に配置する技術案を提供している。
該係争特許は4件の優先権を主張し、そのうち、前の3件が米国の仮出願であり、具体的に以下の通りである。
1件目の優先権主張番号:US 60/972244
2件目の優先権主張番号:US 60/987427
3件目の優先権主張番号:US 60/988433
本事件の係争焦点の1つは、無効審判で使用される引例が従来技術に該当するか否かの判断であり、具体的に、係争特許の優先権が成立するか否かの判定に関する。
無効審判中、無効請求人は、係争特許が上記3件の優先権の利益を享受できないと主張した。特許権者は、口頭審理の際、1件目の優先権をその場で放棄した。
残りの2件の優先権について、無効請求人は、次のように主張した。2件目の優先権について、係争特許の請求項1の記載によると、「2次元リソース領域」が参照信号を含むが、2件目の優先権出願の出願書類には、関連する技術案が開示されていない。具体的に、請求項1には第1マッピング方法が記載されており、当該方法によると、上りリンクで伝送される情報シーケンスを、時間軸優先マッピング方式によって、12×12の行列構造にマッピングするが、当該行列には上記2つの参照信号が含まれていない。よって、請求項1の技術案は、2件目の優先権の出願書類から直接且つ一義的に確定できず、請求項1~4は、いずれも2件目の優先権の利益を享受できない。類似する理由により、請求項1~4は、3件目の優先権の利益も享受できない。
上記理由に対して、合議組は次のように認定している。当業者は、2件目の優先権書類における第1マッピング方法に関する説明及び対応する図面から、2件目の優先権書類における2次元リソース領域が、参照信号として使用されるRSシンボル及び別の上りリンクの情報シーケンスの12×12行列を含むことを直接且つ一義的に確定できる。また、2件目の優先権書類における図9に示される制御信号、データ情報、参照シンボルのマッピングの順序と位置配置から分かるように、2件目の優先権書類には、如何に多重化された信号を順次に前記2次元リソース領域にマッピングするか、及び、如何にACK/NACKを上書きするかに関する内容が記載されている。そのため、合議組は、2件目の優先権書類から、請求項1の技術案を直接且つ一義的に確定でき、係争特許の請求項1~4が2件目の優先権の利益を享受できないという無効請求人の主張が成立しないと認定した。
類似する理由により、係争特許の請求項1~4が3件目の優先権の利益を享受できないという無効請求人の主張も成立しない。この上、合議組は、公開日が2件目の優先権の優先日と3件目の優先権の優先日の間にある引例8は係争特許の従来技術にならず、係争特許の新規性と進歩性を評価することができず、一方、公開日が1件目の優先権の優先日と2件目の優先権の優先日の間にある引例9は、係争特許の従来技術になり、係争特許の進歩性を評価することができると認定した。
弊所のコメント:専利/専利出願が先の出願の優先権の利益を享受できるか否かの判断は、同じ主題の発明又は実用新案であるか否かの判断基準に従うべきであると考える。つまり、専利/専利出願と優先権書類との技術分野、解決しようとする技術課題、採用する技術案、及び予測する技術効果を比較し、両者が技術分野、解決しようとする技術課題、採用する技術案、及び予測する技術効果で実質的に同一であるか否かを判定すべきである。技術案が実質的に同一であるか否かを具体的に判断する際、明細書における文字記載、図面による明確な開示内容だけではなく、技術案全体から構想を理解し、当業者の角度からその把握している専門知識に基づいて分析を行い、技術案が実質的に同一であるか否かを判定すべきであると思う。
二、「移動通信装置用のGUI(共有)」意匠権無効審判事件(無効審決第41733号)
意匠権者:A社
無効請求人:喬氏
特許番号:ZL201730667916.7
決定: 全部無効
係争特許は、動画を共有するGUIに関するものであり、GUIに対するユーザの対話型操作を通じて、動画/ライブの共有を実現する。具体的に、移動装置には、複数の共有アイコンを含むユーザインタフェースが表示され、各共有アイコンをクリックすると、動画/ライブを共有できる。インタフェースにおける各アイコンは、いずれもヒューマンコンピュータインタラクションに利用できる。
無効請求人は、計6件の証拠を提出し、そのうち、証拠2~3は、「PP助手」(注:PP助手は、有料アプリを無料でインストールすることができるアプリである)を利用してタウンロードしたネットワーク証拠であり、証拠4は、インターネットコミュニティで発表された文章である。無効審判中、意匠権者は、タウンロードツールPP助手が信頼できないこと、及び証拠4の日付に矛盾があることを証明するために、反証1を提出した。
本事件の係争焦点の1つは、前記特許文献ではない証拠2~4の認定問題であり、具体的に、アプリ「PP助手」の利用の合法性と正確性、PP助手に表示される日付が専利法上の公開日になるか否かの判断、第三者のコミュニティに表示している日付が公開日として認定できるか否かの判断などである。
上記無効証拠2~4について、意匠権者は次のように主張している。
1)証拠2と証拠3について、PP助手を通じてソフトウェアをダウンロードすることの合法性と正確性を認めない。PP助手に表示される日付が専利法上の公開日であることを認めない。反証1から分かるように、PP助手を利用する際、ダウンロードできない、ダウンロードされた後にソフトウェアが開けられない、ダウンロードに成功したとしてもログインできないなどの問題がある。「SnapPea」(注:Androidデバイス上のファイルやコンテンツを管理するためのアプリである)に示す公開日を認めない。また、PP助手とSnapPeaを利用してダウンロードしたバージョンは、意匠権者の公式ウェブサイトによって提供されるバージョンと一致しないため、TikTokのバージョン V1.6.4とV1.6.5の公開日を証明する直接的な証拠がない。
2)証拠4について、ウェブサイト「簡書」がブログであり、無効請求人は、当該ウェブサイトの管理と運営規則に関する説明を提出しておらず、その公開日を証明できない。また、反証1の200頁目に、ウェブサイト「簡書」に対する説明が提示され、その内容から分かるように、発表内容を表示する際のユーザ名と登録時のユーザ名とが異なり、且つ同じバージョンに表示される複数の日付が矛盾しているため、その公開日は確定できない。
3)証拠2と証拠3には、ソフトウェアの同じバージョンが示されているが、インターフェースにおいて、不一致なところが多数あることにより、公式バージョンであることを証明できず、その日付も公式サイトの公布日付ではない。
合議組は、意匠権者の上記主張を認めず、意匠権者の反論意見が成立しないと認定している。具体的に、合議組は次のように認定している。
証拠の合法性とは、証拠の形成、取得が法的規定に適合することを意味している。証拠2において、対比設計2~3の証拠保全の過程に対する公証の内容が詳しく記載されているため、その取得ルートには、明らかに不適切なところがない。また、無効請求人は、アプリ「PP助手」における「TikTok Short Video v1.6.5〡49.02MB 日付:2017-12-15」が、本事件の意匠権者によるものであると主張している。これについて、意匠権者は否定もしていないし、上記主張を覆す証拠も提出していない。
正確性について、証拠2には、公証時に2,569万人がアプリ「PP助手」を使用していることが示されており、また、反証1に、PP助手によるダウンロードと使用にいくつかの問題があるという一部のユーザのコメントがあるとはいえ、大量のユーザがダウンロード、インストール、および使用した後に、PP助手に対してプラス評価を与えた記録もあった。一部のユーザがダウンロード又はインストールの際に問題があったことをもって、正常にダウンロード、インストール、および使用することができ、かつこれにより、対応するGUIが開示されているという事実を否定することができない。
証拠2と証拠3が同じバージョンであるにもかかわらず、インターフェースに相違があるという意匠権者の主張について、上記相違が、アプリを通常通り使用する際によくあるアイコンの正常的な変化である。公式サイトにおけるバージョンと公式サイトの公開日について、無効請求人は、証拠におけるソフトウェアTikTokとそのリリース日が意匠権者の公式ウェブサイトから由来するものであると主張していないため、特許権者の反論は狙いがはっきりしていない。それに、意匠権者は、証拠においてダウンロードされたソフトウェア「TikTok Short Video v1.6.5」の所有者でありながら、その公式バージョンと公式の最初のリリース日を裏付ける証拠を一切提出しておらず、証拠2のソースが違法である証拠も提出していない。
したがって、合議組は、意匠権者の反論意見及び反証1は、その主張を裏付けることができないと認定し、特許権者の上記主張を支持しなかった。
弊所のコメント:ネットワーク証拠の合法性については、証拠を収集した主体、収集の形式、証拠収集の手続き、および証拠の抽出方法が法的規定に適合するかどうかを判定する必要がある。ネットワーク証拠の真実性については、ネットワーク証拠のソース、形式、作成プロセスとデバイスの状況に基づいて、その内容が真実である否か、編集、組み合わせ、偽造、および改ざんなどがされたか否かを判断すべきである。つじつまが合わないところがあれば、実際の状況に応じて具体的に分析する必要があると考える。
ネットワーク証拠を取得する方法はたくさんある。直接にウェブサイトからダウンロードする場合、結論を覆すほどの反証がなければ、ウェブサイトに記載されるアップロード時間や更新の日付などを、ソフトウェアが公衆によりダウンロードできる日付、即ち公開日付とする。アプリストア、ソフトウェアダウンロードアシスタントなどの補助的なAPPを利用してネットワーク証拠をダウンロードする場合、結論を覆すほどの反証がなければ、補助的なAPPに表示される対応するソフトウェアバージョンの日付を、そのソフトウェアが公衆により取得できる日付と見なされる。ウェブサイトに掲載された記事について、結論を覆すのに十分な反証がなければ、記事ページに記載される日付を公開日と見なすことができる。