改正後の中華人民共和国専利法(以下、新専利法という)は、202161日より施行される。意匠出願に関して、新専利法では、いくつか注目されるべき重要な変化がある。

蘇娟 北京市金杜法律事務所 弁護士

一、部分意匠は出願可能になる

専利法第2条第4項は、「意匠とは、製品の全体又は部分の形状、模様又はその結合、及び色彩と形状、模様の結合について作り出された、美観に富み、工業的応用に適した新しい設計をいう。」に変更された。

従来、中国では、工業製品の全体意匠のみを保護し、分割できない製品の部分意匠に対しては保護を与えなかった。これは、製品のごく一部しか占めていない新しい設計に非常に不利である。新専利法において、部分意匠を保護対象とすることは、出願人が製品の分割できない部分について新規な設計を創作する場合、意匠出願の提出が可能になることを意味している。具体的な規定はまだ出されていないが、図面における破線は拒絶されないようになり、破線で製品の全体を表現し、実線で請求する部分意匠を表現可能であると見込まれる。これは、工業製品の意匠に対する保護を大幅に強化することになり、特にGUIへの保護にとって朗報である。

二、国内優先権の成立

現行の専利法においては、意匠について、外国の優先権しか主張できない。国内の意匠が提出されると、実際に発売しようとする製品に小さな変更がある場合、又は複数の類似設計を売り出そうとする場合、最初の出願を取り下げまたは放棄して、新しい出願を提出し直すか、最初の出願を放棄せずに新しい出願を提出する措置を講じることしかできない。後者すなわち最初の出願を放棄しない場合、後の出願は自分の先願によって無効とされるリスクがある。

新専利法第29条第2項は、「出願人は発明又は実用新案出願を中国で初めて提出してから12か月以内に、又は意匠出願を中国で初めて提出してから6か月以内に、改めて国務院専利行政部門に同じ主題について専利出願を提出する場合、優先権を主張可能である。」と変更された。

新専利法により、意匠の国内優先権が認められるようになり、出願人は、設計の初歩的な構想がある時点で、中国意匠出願を提出し、その後、6か月以内に微調整がある場合や複数の類似設計がある場合、国内優先権を利用して適時に保護範囲を補足することができる。

三、意匠の保護期間を15年まで延長

新専利法によると、意匠専利権は保護期間が15年であり、出願日から起算するものとする。これは非常に重大な変化であり、2021年6月1日以降に提出する全ての中国出願に適用される。初めて外国で提出される意匠出願については、最初の出願の優先権の期限が切れていない場合、2021年6月1日以降に中国で提出することを提案する。初めて国内で提出される意匠出願の場合、経過措置はまだ明確にされていないが、原則的には、6か月を超えていない限り、国内優先権に関する新しい規定を利用して改めて意匠出願を提出すれば、15年間の保護を受けることが可能になる。何しろ、15年間と10年間の保護期間は、差が大きいものである。

以上の内容の他、発明、実用新案及び意匠に関するいくつかの共通の変化も、出願人の意匠出願戦略に影響を与える。

四、新規性を喪失しない例外

専利法第24条には、新規性を喪失しない公開のパターンが1つ新設された。即ち、国が緊急状態または非常事態になった際、公共の利益の目的のため初めて公開された場合、新規性を喪失しないとする。この場合、出願人は、関連する証拠を提出することにより、自分の新しい設計が出願前の公開によって新規性が喪失されるのを回避することができる。

五、開放許諾制度

専利の商業化と運用を促進し、取引コストを低減し、商業化の効率を高めるために、新専利法には、開放許諾制度が導入された。

第50条:「専利権者は、書面にて国務院専利行政部門に如何なる団体又は個人にもその専利の実施を許諾する意思があると声明し、許諾実施料の支払方式、基準を明確にした場合、国務院専利行政部門はそれを公告し、開放許諾とする。実用新案、意匠について開放許諾声明を出す場合、専利権評価報告書を提供しなければならない。…」

第51条:「…開放許諾を実行する専利権者は被許諾者と許諾実施料について協議した後で通常実施権を与えることができるが、当該専利権について独占・排他的な実施権を与えてはならない。」

開放許諾制度は、専利の商業化と実施を促進するための重要な法的制度の一つである。政府の公共サービスを通じて専利技術の需給双方の情報の非対称的な課題を解決し、専利権者が社会に対して専利権を開放するよう奨励し、需給のマッチングと専利実施を促進し、専利の価値を真に実現することを目指している。

六、被疑侵害者でも専利権評価報告書を提示可能

新専利法第66条によると、専利権者、利害関係人だけではなく、被疑侵害者も自発的に専利権評価報告書を提示することができる。これは、被疑侵害者に主導権を与え、特に被疑侵害者が専利の安定性を潰す先行意匠を発見した場合に非常に有利である。

七、損害賠償と立証責任

新専利法において、懲罰的損害賠償制度が新設され、即ち、故意に専利権を侵害し、情況が深刻である場合、人民法院は、権利者が被った損失、権利侵害者が獲得した利益、又は専利の許諾実施料の倍数に基づき算出した金額の1~5倍以内に、賠償金額を確定することができる。同時に、法定賠償金額を高め、法定賠償金額の上限を500万元に、下限を3万元に引き上げた。

証拠に関する規定について、権利者がすでに立証に力を尽くしたにもかかわらず、権利侵害行為に係る帳簿、資料が主に権利侵害者に保有されている状況で、権利者の立証の負担を軽減するために、人民法院は権利侵害者に提出を命じることができる。

上記規定は、同様に意匠専利に適用する。

八、権利侵害の訴訟時効を三年に変更

民法典の施行に適応するために、新専利法には、専利権侵害の訴訟時効を3年とし、専利権者又は利害関係人が権利侵害行為及び侵害者を知った日又は知り得べき日より起算すると規定されている。

 専利法の改正は、出願人の出願戦略に重大な影響を与えることになる。より有利な保護を得るように出願人は自社製品の設計の進展、発売の計画、初めての出願の提出状況などに応じて予め布石を打つべきであると思う。