馬立栄、郭煜、王娟娟,知的財産権 金杜法律事務所
2021年3月3日、最高人民法院による、「知的財産侵害事件審理における懲罰的損害賠償の適用」に関する司法解釈(以下、「解釈」と省略)が公開、施行された。同「解釈」は七条からなり、懲罰的損害賠償の適用範囲、請求の内容およびタイミング、主観的要件である「故意」および客観的要件である「情状深刻」についての認定、損害賠償計算の基礎と倍数の確定を規定した(条文は以下のリンク先参照)。
http://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-288861.html。
ご周知の通り、中国の知的財産分野においては、2013年に改正された商標法及び2015年に改正された種子法での懲罰的損害賠償の導入に続いて、2019年に改正された不正競争防止法、2020年に改正された専利法、著作権法といった知的財産権部門法にも懲罰的損害賠償条項が増やされた。また、2020年に公布された民法典に知的財産権侵害の懲罰的損害賠償制度を導入することにより、懲罰的損害賠償は知的財産全分野まで拡がった。
各部門法は、懲罰的損害賠償適用についての表現の差異があったりして、同「解釈」は、これらの差異を考慮しながら、懲罰的な損害賠償の適用基準の統一化を図っている。
最高人民法院は、同「解釈」について記者インタビューを行い、その要点を以下の通り示す。
1.「故意」と「悪意」の適用条件については、区別せず、同じように解釈する
懲罰的損害賠償の適用に関する主観的条件は、部門法によって、「故意」(民法、専利法、著作権法、種子法)であったり、「悪意」(商標法、不正競争防止法)であったりして、異なっている。最高人民法院によると、実務において、「故意」と「悪意」についての区別が困難なため、「解釈」の第一条において、二つの文言は同じ意味であると明確化した。
2.侵害の情状が深刻である要件についての認定基準
侵害の情状が深刻であることは、懲罰的損害賠償を適用する客観的な要件である。すでに発生した典型的事件に基づいて、情状が深刻である例、①侵害によって行政処罰もしくは裁判で責任を負った後に、また同一もしくは類似の侵害行為を起こす場合、②知的財産権の侵害を業とする、③侵害証拠の偽造、損壊、隠匿をする場合、④保全の裁定を履行しない場合、⑤侵害による獲得利益もしくは侵害による被害額が巨大である場合、⑥侵害行為が国家の安全、公共利益もしくは人身に損害を与える場合、⑦その他の情状が深刻である場合、を第四条に列挙した。
3.懲罰的損害賠償の計算基礎の明確化
知的財産分野の部門法によって、計算の優先順位を規定したり(特許法、著作権法)、しなかったり(商標法、不正競争防止法、種子法)するケースがある。また、損害賠償に合理的な支出が含まれているか否かの規定も異なっている。したがって、「解釈」の第五条には、「法律に別に規定がある場合、その規定にしたがう」とした。すなわち、各案件はそれぞれの部門法の規定が適用されることになる。
同「解釈」は、懲罰的損害賠償の適用条件等を明確化することにより、その濫用を防ぐようにしている。情報筋によると、最高人民法院はこれから知的財産権の懲罰的損害賠償の典型事例を公開し、「解釈」の各条文の正確な適用を指導する。
同「解釈」の運用開始にしたがって、懲罰的損害賠償の適用基準がより明確化すると予想され、中国の知的財産保護の一層の強化が期待される。
(注:以上の内容は最高人民法院が公開した内容に基づいてまとめたものである)
以上