劉迎春,知的財産権 金杜法律事務所

中国民事訴訟法の関連規定によると、専利民事権利侵害事件の当事者は、法院の法的効力を生じた判決、裁定などを履行しなければならず、履行を拒否する場合、相手方当事者は当該判決、裁定などの発効日、或いは当該判決、裁定に規定される履行期間の最後の日より起算する二年間以内に人民法院に対して執行を申し立てることができる。執行申立の時効は、民事訴訟法における訴訟時効の中止、中断に関する規定を適用するし、時間の引き延ばしによって賠償責任を負う当事者が財産を移転してしまうなどの事態の発生を回避する必要もあるから、専利民事事件の裁決が効力を生じた後、勝訴当事者は早急に権利侵害者と交渉し、権利侵害者に効力を生じた裁決を履行するよう要求すべきである。権利者は、交渉が妥結に至らなかった場合、又は交渉せずに直接法院に強制執行を申し立てることが可能である。

一般の民事事件の強制執行と類似し、専利民事権利侵害事件の一審法院又は一審法院と同級の被執行財産所在地の法院が、専利民事権利侵害事件の効力を生じた裁定について強制執行を行う。但し、北京、上海、広州知識産権法院は、執行廷が設けられていないため、上記三法院によって下された専利民事権利侵害事件の効力を生じた裁決の強制執行は特殊性がある。最高人民法院による2015年初の関連通知によれば、知識産権法院の所在地の高級人民法院が、一審が知識産権法院で行われた事件の効力を生じた判決を執行するよう管轄区内の他の中級法院に指定することができる。

最高人民法院の当該通知に基づき、広東省高級人民法院は、公告によって、広州市中級人民法院又は被執行財産所在地の中級人民法院が、広州知識産権法院が一審法院とする事件の効力を生じた判決を執行すると指定する。北京市高級人民法院は、知的財産権事件の管轄調整の移行に関する問題についての規定に基づいて、北京市第一中級人民法院が、北京知識産権法院が一審法院とする事件の効力を生じた判決を執行すると指定する。上海知識産権法院が一審法院とする事件の効力を生じた判決は、上海市第三中級人民法院が執行する。

管轄の問題を解決したら、強制執行に係る手続きは比較的に簡単である。権利者は、管轄権を有する法院の執行廷に対して立案手続きをする必要があり、通常には以下の書類を提出する必要がある。

Ⅰ. 強制執行申立人の主体資格証明書類。強制執行申立人が中国公民である場合、身分証明書の写しを提出する必要がある。強制執行申立人が中国法人又は他の組織である場合、主体資格証明書類として、印鑑が押された営業許可証の写し及び法定代表者の身分証明書を含む。強制執行申立人が外国法人又は他の組織、もしくは中国香港・マカオ・台湾の法人又は他の組織である場合、主体資格証明書類として、会社存続証明書及び法定代理者の身分証明を提出する必要がある。但し、ご注意頂きたいことは、強制執行申立人が外国の主体である場合、その主体資格証明書類は、所在国で公証を取った後に当該国に駐在する中国の大使館・領事館で認証を取り、又は両国の間に結んだ関連条約に規定された証明手続きをする必要がある。また、強制執行申立人が中国香港・マカオ・台湾の主体である場合、中国香港・マカオの主体にとって、その主体資格証明書類は、司法部の委託した委託公証人となる香港/マカオの弁護士を経由で、委託公証人/マカオの公証部門によって関連する公証書類を作成し、司法部が香港/マカオで設立した中国法律服務(香港/マカオ)有限公司の審査を経て印鑑が押された後に、大陸へ転送されて使用する。また、強制執行申立人が中国台湾地域の主体である場合、台湾地域の地方法院の公証処又は法院に属する民間の公証人の事務所に対して公証手続きを行い、海峡交流基金会及び海峡両岸関係協会が審査して印鑑を押した後に、大陸に送り、中国公証協会による公証を取ってから法院に提出する。

Ⅱ. 強制執行申立人が中国公民、法人又はその他の組織である場合、自ら管轄権を有する法院に赴き強制執行を申し立てることもできるし、代理人を委託して強制執行を申し立てることもできる。代理人を委託する場合、強制執行申立人による委任状の提出が必要とされる。強制執行申立人が外国の主体、又は中国香港・マカオ・台湾の主体である場合、中国の弁護士に委託して強制執行の申立をしなければならない。ご注意頂きたいことは、渉外の専利民事権利侵害事件の委任状も、第Ⅰ項に記載された公証・認証手続きが必要とされる。

Ⅲ. 強制執行申立書。被執行人が一人でも複数人でも、1部を提出する。強制執行申立書に、以下の内容を明記すべきである。

(A)強制執行申立人の氏名/名称及び住所。

(B)被執行人の氏名/名称及び住所。

(C)執行の根拠、即ち、効力を生じた民事判決、裁定書、調解書。

(D)請求事項:請求される執行は、行為でも財産でもよい。例えば、判決で確定された経済の損失や合理的な権利保護に係る費用の執行請求、履行遅延期間中の債務利息の執行請求、判決で確定された在庫品や生産用の金型の廃棄の執行請求、及び執行申立のための支払いの執行請求などが挙げられる。

Ⅳ. 効力を生じた判決、裁定書、調解書の原本。

Ⅴ. 判決、裁定が効力を生じた証明。実務において、執行法院と一審法院が異なる場合、一審の効力を生じた判決や裁定に対しても二審の効力を生じた判決や裁定に対して、強制執行申立人に判決、裁定が効力を生じた証明の提出を命じる法院が多い。また、二審の効力を生じた判決や裁定に対して効力を生じた証明の提出を求めず、一審の判決や裁定に対してのみ効力を生じた証明の提出を命じる法院もある。効力を生じた証明について、一部の二審法院は、強制執行申立人の申請に応じて効力を生じた証明を作成するが、現段階では最高人民法院は効力を生じた証明を発行しない。その代わりに、執行法院の確認のために、判決、裁定書の送達受領証や、最高人民法院の担当裁判官又は書記官の連絡先を提供することが可能である。

Ⅵ. 被執行人の財産の手がかり(ある場合)。強制執行申立人が被執行人の執行可能な財産の手がかりとなる情報を提供できることが最善であり、これによって強制執行プロセスのスピードアップが図れる。特にご注意頂きたいのは、有利な判決を獲得しても最終的に執行できない事態の発生を回避するために、提訴前、事件審理前又は審理中に、権利侵害の疑いがある者が財産を移転する恐れがある場合、又は財産移転の可能性があることや財産を移転していることを発見した場合、できるだけ早く財産保全の申し立てを行うべきである。強制執行を申し立てる時に、被執行人の財産に対して既に保全措置を講じた場合、関連する民事裁定書を提出すべきである。

被執行人の財産の手がかりとなる情報の提供が困難であっても特に差し支えはない。管轄権を有する法院が受理した後に、強制執行申立人が調査令をもって被執行人の執行可能な財産に係る証拠を調査できるように、法院調査令を発行する法院もあるし、被執行人に財産の情報を提供し自発的に履行するよう、財産報告令を発行する法院もあるし、情報調査の費用を取らずに、自ら財産の証拠を調査する法院もある。特に近年、各地の法院による情報化の強化は、強制執行申立人に大きな便宜を与えた。例えば、広州の法院は、情報化と執行の連携メカニズムの構築の強化に力を入れ、全市の不動産全体に対する調査と制御、国有銀行および平安銀行の預金と金融商品に対する調査、凍結、振替、及び公安システムの人口と車両情報に対するネットワークによる調査と制御を可能にする広州「スマート法院」プラットフォームに依託する「天平執行調査・制御網」を築き上げた。それにより、執行裁判官は、コンピュータの前で調査、凍結、および振替を簡単に完了できる。そのため、例えば広州市中級人民法院の執行スピードが非常に速くなり、提出から終了まで5か月しかかからず、執行申請者の期待を大きく上回ったケースもある[1]。

一つのイ号品が権利者の複数の専利権を侵害する場合がある。この複数の専利権は、それぞれ、発明、実用新案、又は意匠専利である可能性があり、また、異なる権利侵害者に対して、事件の審理が異なる法院で行われ、そのうち、判決が既に効力を生じた事件もあれば、判決がまだ効力を生じていない事件や、判決がまだ出されていない事件もある。この場合、例え後続の事件は、判決がまだ出されていない又は判決が出されたがまだ効力を生じていなくても、効力を生じた判決に対しては、後続事件の判決の発効を待たずに強制執行を申し立てることができる。

時には、強制執行の間に、被執行人又は利害関係者が管轄権や、分配・執行の方案、オークション措置などの手続き上および/または実質的な問題について、執行法院に対して書面による異議を申し立てるなどの紆余曲折を経ることもある。これに対して、執行法院は、異議申立の受領日から15日以内に異議申立の理由が成立するか否かを審査しなければならない。成立する場合、取消し又は訂正の裁定を下し、成立しない場合は、却下の裁定を下すとする。当事者、利害関係者が裁定を不服とする場合、所定の期限内に直近上級の人民法院に対し再議を申し立てることができるが、異議審査及び再議の期間においては、執行は停止しない。

無論、執行手続きが全て順調に執行できるわけではない。実務においてよく出会う問題は、事件外の人が執行の目的物について明らかに理由のある異議を提出した場合(例えば、執行される不動産に登録ミスがあったなど)や、権利侵害者の公民が死亡し、相続人が権利を承継し又は義務を負うのを待つ必要がある/権利侵害者の法人若しくはその他の組織が消滅し、権利・義務の継承者が確定していない場合において、人民法院が執行を中止する旨を裁定する。もちろん、再審など、法院が執行を中止すべきと認めるその他の事由もある。中止の事由が消失した後には、執行を再開する。

しかし、専利権が無効とされたなどの場合、法院は執行を終結する旨を裁定する。

執行の中止及び終結に係る裁定は、当事者に送達された後に、直ちに効力を生ずる。

通常、執行法院は、立案した後に対応する措置を講じて執行する。迅速に執行する法院もあれば、被執行人の執行可能な財産の調査に困難があるなどによって手続きを長期間遅らせる法院もある。管轄権を有する法院がだらだらして、執行申立書の受領日から6か月を過ぎても執行していない場合、執行申立人は、直近上級の人民法院に執行を申し立てることができる。直近上級の人民法院は、審査を経て、原審の法院に一定の期間内に執行するよう命ずても、当該法院が自ら執行する旨を決定し、又はその他の人民法院に執行を命ずても可能である。

被執行人の執行可能な財産の調査が困難であるなどの場合、強制執行プロセスの迅速化を図るために、執行申立人は、被執行人が執行可能な財産があると発見したときに適時に情報を提供するなど、法院を支援することができる。実行性のある方法の一つとして、被執行人が信用喪失の状況に合致すると発見した場合、できるだけ早く被執行人をブラックリストに載せるよう法院に申請することが挙げられる。ラオライ(借金を踏み倒す人)リストに入った場合、被執行人の上場などに影響を与えるため、執行のスピードアップに寄与する[2]。実務において、被執行人が執行を拒否した場合に、消費制限命令を自発的に発行する法院がある。上記の措置を講じると、被執行人は、高級交通機関の利用や、ホテルでの滞在と高額の消費、不動産の購入、住宅の新築・増築と高級内装工事の実施、高級オフィススペースのリース、営業に必要のない車両の購入、旅行、子供が高額な私立学校での勉強などの高額の消費及び生活・営業に必要のない消費行為が制限される。執行申立人の同意を得る場合又は被執行人が確実且つ有効な担保を提供する場合に限って、法院は消費制限命令を解消する。これは、執行問題の解決を大きく促進する。

もう一つご留意頂きたいことは、法院から執行金を受け取る旨の通知を受領した場合、法院の事件結審に影響を与えることや予想外の問題を生じることを回避するために、執行申立人はできるだけ早くそれを受領すべきである。

従って、中国の法治化の推進や、知識産権事件の執行に対する国の重視、地方法院の情報化と執行の連携メカニズムの構築に伴い、情報ネットワークによる調査と制御および信用喪失行為への連合懲戒などの手段の運用と強化によって、専利民事権利侵害事件の判決の執行は、これまでに比べて大幅に加速されており、今後はさらに短縮されると見込まれる。

参考資料:

[1] 知識産権の執行事件、申立人はなぜ広州中院を選択するか?、テンセント、2019年8月30日,https://new.qq.com/omn/20190830/20190830A0PHVA00.html

[2] 知識産権事件の「ラオライ」にノーと言う、法治週末、2018年5月3日,https://baijiahao.baidu.com/s?id=1599405751588483783&wfr=spider&for=pc