筆者:馬立栄 郭煜 王娟娟 金杜法律事務所 知的財産権
一、第四次改正専利法の経過措置についてのQ&A
第四次専利法改正は、2021年6月1日より施行される予定ですが、実施細則の改正はまだ決定されていないため、中国国家知的財産局は、5月24日にその経過措置を公開しました。その経過措置については、Q&Aの形で以下の通り整理しました。
Q1:部分意匠の出願は、2021年6月1日から提出できますか?
6月1日以降(当日を含め)は、部分意匠出願を提出可能です。ペーパー出願もできれば、オンライ出願もできる。優先権も主張可能である。但し、その審査(初期審査のこと)は新たに改正された実施細則の施行後に行われます。
Q2:意匠出願の中国国内優先権は、いつから主張可能でしょうか。
第四次専利法改正で意匠出願の中国国内優先権制度が導入されたため、出願日2021年6月1日(当日を含め)以降のものは中国国内優先権を主張可能になります。ただし、主張された優先権および当該出願の審査は実施細則改正決定後に行われます。
Q3:意匠権の保護期間は15年になりますが、6月1日前に出願し、6月1日の後に登録公告された出願には適用されますでしょうか?
15年の保護期間の適用対象は、2021年6月1日(当日を含め)以降に出願されたものですので、6月1日前に出願された意匠出願は、6月1日以降に登録公告になっても、保護期間は10年です。
したがって、出願日一日の差で、保護期間に大差が出てしまうので、出願する際、期限が許されるならば、6月1日以降の出願をお勧めします。
Q4:訴えられた侵害者は、6月1日以降に専利権評価報告書の発行を請求できますでしょうか?
第四次改正の専利法の第66条によると、実用新案および意匠権に関する紛争が発生する場合、専利権者、利害関係者もしくは訴えられた侵害者は自発的に専利権評価報告を提出することができます。したがって、本経過措置によりますと、訴えられた侵害者は、6月1日よりペーパー形式で国家知的財産局に請求することができます。
Q5:PTAおよびPTEの運用対象およびタイミングはどうなりますでしょうか?
PTAについては、2021年6月1日以降(当日を含め)に登録公告された発明特許は、専利権者は登録公告日より3か月以内にペーパー形式で専利権保護期間の補償を請求可能になります。
PTEについては、専利権者は2021年6月1日から、新薬上市承認された日から3か月以内に、ペーパー形式で専利権保護期間の補償を請求可能になります。
ただし、以上の二つの請求は受け付けられますが、その審査は実施細則の改正決定後に行われます。
Q6:その他の経過措置はございますでしょうか?
以上を除き、例えば、新規性喪失例外の新設項目(国家の緊急事態又は非常時に公共利益のための初公開)、優先権証明書の提出期限(発明特許、実用新案、第一国出願日より16か月)、ペーパー形式の開放許諾請求はいずれも出願日2021年6月1日以降のものに適用されます。ただし、改正中の実施細則がまだ決まっていないため、審査は実施細則決定後に行われます。
また、国家知的財産局は、2021年6月1日から、専利法第20.1(専利権の濫用不可)、専利法第25.1の(五)(原子核変換方法の不特許事由化)に基づいた審査を始めます。
二、中国国家知的財産局による「重大な専利権侵害紛争の行政裁決弁法」の公布
第四次専利法改正の第七十条には、「国務院専利行政機関は専利権者もしくは利害関係者[1]の請求にしたがって、全国において重大な影響がある専利権侵害紛争を取り扱うことができる」と新設されました。それに合わせるように、国家知的財産局は5月26日に「重大な専利権侵害紛争の行政裁決弁法」(6月1日より施行)を公布しました。
同弁法のポイントを以下の通り示します。
当該弁法によると、重大な専利権侵害紛争とは、(一)重大な公共利益に関わる紛争、(二)業界の発展に重大な影響を与える紛争、(三)省・自治区・直轄市を跨ぐ重大事件に該当する紛争、(四)その他の重大な影響を与える可能性がある専利権侵害紛争、のいずれかのことをいう。
重大な専利権侵害紛争に対する行政裁決を請求する場合は、(一)請求人が専利権者又は利害関係者であること、(二)明確な被請求人がいること、(三)明確な請求事項と具体的な事実、理由があること、(四)裁判所が当該専利権侵害紛争について未だ立件していないこと、という条件を満たさなければならない。
国家知的財産局は、行政裁決の請求書を受け取った日から5営業日以内に、立件や受理しないことを請求人に通知しなければならない。立件する場合、3 名以上の奇数の事件処理担当者を指名して合議体を結成し、事件処理に当たらせる。事案が特に複雑な場合又は他の特殊な状況がある場合、承認を経て、立件期間を5 営業日延長することができる。
国家知的財産局は、立件日から5営業日以内に請求書及びその添付書類の副本を被請求人に発送し、それらを受領した日から15日以内に答弁書を提出するとともに請求人の人数分の答弁書の副本を提出するよう要求する。被請求人が期間を過ぎても答弁書を提出しなかったとしても、事件の処理には影響を及ぼさない。
当事者は、自ら提出した主張について証拠を提出する責任があるが、客観的な事由により収集できない証拠について、初歩的な証拠及び理由を提出し、書面にて国家知的財産局に調査・検査をするよう請求することができる。事件事実を究明する必要に応じて、国家知的財産局は、法に従い、自発的に調査・検査することもできる。
国家知的財産局は、技術調査官を指名派遣して、事件処理に参加させ、技術調査意見を提出させることができる。関連する技術調査意見は、合議体が技術事実を認定するための参考とすることができる。
国家知的財産局は、事案の必要性に応じて口頭審理を行うか否かを決定する。
国家知的財産局は専利権侵害紛争を処理するに当たって、立件日から三ヶ月以内に処理決定を下さなければならない。事件が複雑で又はその他の事由により、所定の期間内に処理決定を下すことができなかった場合、承認を経て、一ヶ月延長することができる。事案が特に複雑で又はその他の特殊な状況があり、延期しても処理決定を下すことができず、承認を経て引き続き延期することを決定した場合、延長の合理的な期間を同時に決定しなければならない。
当事者は行政裁決に不服がある場合、行政裁決書を受け取った日から15日以内に、人民法院に提訴することができる。被請求人が期限満了し、提訴しないもしくは侵害行為を停止しない場合、国家知識産権局は人民法院に強制執行を申請することが可能である。
[1] 利害関係者とは、訴権を有する実施権者、普通、独占実施権者と訴権が専利権者に付与された実施権者のことをいう。