筆者:徐静 金杜法律事務所 知的財産権
2021年4月に開示された最高人民法院による終審判決では、社会大衆の信頼利益と専利権保護とのバランスに基づいて、専利権者が専利権確認手続きにおいて他の請求項の技術的特徴を加える方式により専利権侵害訴訟手続きで主張された請求項を補正した場合、法院は、請求項補正前の権利侵害行為による損害賠償の減額を酌量することができると認定された。そのため、権利確認手続きにおいて、他の請求項の技術的特徴を加える補正を慎重に行うべきである。
事件概要
原告のA会社は、B会社に対して、専利権侵害訴訟を浙江省寧波市中級人民法院に提起した。A会社は、B会社の侵害品が係争専利の授権公告された請求項1、2及び7の保護範囲に属する(その中、請求項2、7は独立請求項1の従属請求項である)と主張した。第一審法院は、A会社の主張を認め、B会社が合理的支出5万元を含む経済損失28万元をA会社に賠償することを判決した。
B会社は最高人民法院まで上訴した。第二審の間、第三者が係争専利に対して提起した無効審判請求に対して、A会社は、授権公告された時の請求項7の一部の技術的特徴及び請求項9の全ての技術的特徴を請求項1に加える補正を行った。国家知識産権局は上記補正された請求項を基に専利権を有効に維持した。
権利侵害訴訟の第二審において、最高人民法院は、訴えられた侵害品が依然として補正後の請求項1、2、7を侵害したと認定したが、賠償額について、以下のように認定した。専利の作成及び実体審査手続き対応の難しさ及び制約により、専利権確認手続きにおいて専利権者が他の請求項の技術的特徴を加える方式で請求項を補正することを許容する必要がある一方、係争専利の権利付与日から補正日までの間、社会大衆は、係争専利の保護範囲が係争専利の授権公告された請求項に準ずるという合理的期待があり、この期待の基に係争専利権への侵害を避けるものである。補正後の請求項1は、旧請求項7の一部の技術的特徴及び請求項9の全ての技術的特徴を含むが、その技術案が授権公告された請求項に含まれない。そのため、このような補正方式は、専利保護範囲に対する社会大衆の期待を超えてしまう恐れがあり、その信頼利益をある程度損害することになる。専利権保護と社会大衆の信頼利益とのバランスに基づいて、最高人民法院は、請求項補正前の権利侵害行為に対して損害賠償の減額を酌量することができると認定した上、本事件の合理的支出を含む賠償額を5万元に下げた。
コメント及び提案
2017年に、「請求項の更なる限定」という新たな請求項の補正方式を《専利審査指南》に導入した。他の請求項の技術的特徴を独立請求項に加える補正が可能になる。これにより、補正後の請求項は、授権公告された請求項のいずれとも異なることがある。
上述した事件において、最高人民法院は、訴えられた侵害品が依然として補正後の請求項の保護範囲に備えると認定したが、社会大衆の信頼利益と専利権保護とのバランスを考慮した後、請求項補正前の権利侵害行為による損害賠償の減額を酌量することができると認定した。現段階では、中国の全ての特許及び実用新案専利事件の上訴は、最高人民法院が統一に管轄するため、専利権者が他の請求項の技術的特徴を加える補正を行った場合、他の中国の法院は、上記発効判決における最高人民法院の意見を参照して請求項補正前の権利侵害行為による損害賠償の減額を酌量する可能性がある。したがって、特に権利侵害訴訟が並行している場合、無効審判手続きで他の請求項の技術的特徴を加える補正を慎重に行うことを提案致する。