筆者:徐静 金杜法律事務所 知的財産権
最近、最高人民法院が2つの実用新案権侵害係争事件について下した終審判決では、訴えられた侵害者が販売の申出の権利侵害行為のみを実施したとしても、侵害の停止以外、損害賠償の民事責任を負うことが明確になった。
事件概要
原告のA会社は大型建設機械を開発する企業である。2018年、A会社は、B会社がオンラインショップ及び公式サイトでその専利権を侵害する疑いのある製品を展示したことを発見し、B会社が上記侵害品を製造、販売の申出、販売する行為を有すると考え、青島市中級人民法院に提訴した。B会社が直ちに侵害を停止するとともに、経済損失10万元及び合理的支出をA会社に賠償するよう請求した。第一審法院は、審理を経て、上記製品が係争専利権の保護範囲に備え、B会社が訴えられた侵害品を展示した行為は販売の申出に該当するが、B会社が訴えられた侵害品を製造、販売する行為を有することについてA会社が証明できないと認定した。その結果、第一審法院は、法定賠償を適用して、B会社が合理的支出を含む3万元をA会社に賠償するよう判決した。
B会社は、最高人民法院に上訴し、その販売の申出の行為により、A会社が経済損失を被ることなく、B会社に経済利益をもたらすこともないため、損失賠償の法的責任ではなく、A会社の権利保護ための合理的支出を賠償する責任のみを負うべきであると主張した。
最高人民法院は最後B会社の上訴を棄却した。最高人民法院は、以下のように認定した。訴えられた侵害者による販売の申出の価格は通常専利品の価格より低く、潜在消費者に心理的暗示を与え、専利品の合理的定価を影響し、ひいては消費者が専利品の購入をやめて専利品の正常販売を遅延又は減少させる恐れがある。また、販売の申出の行為は、専利品の広告宣伝効果に不利な影響があり、これらの損害がいずれも合理に推定できるものである。更に、販売の申出の行為が損害賠償の責任を負うほうは、イノベーションの保護、奨励に有利であり、専利法の立法目的の実現に寄与できる。専利権者が販売の申出の行為による具体的な損失を挙証により証明することが困難である場合、法定賠償方式により損害賠償を算定することができる。これは、正に、法定賠償制度を設立する本音である。
コメント及び提案
2000年専利法を改正したとき、販売の申出の行為を1つの独立した専利権侵害行為として専利法に導入した。専利法に規定されている販売の申出は、コマーシャル、店舗ウィンドウの展示や展示会での展示などの方式により商品販売の意思表示をする行為である。過去の司法実務では、中国の法院(最高人民法院を含む)は、通常、販売の申出により権利者が実際の損失を被ることなく、又は実際の損失を証明できないことを理由にして、単独の販売の申出の行為に対する権利者の損害賠償請求を認めず、合理的支出の訴訟請求のみを認めた。
一方、上記事件において、最高人民法院の態度が変わった。最高人民法院は、販売の申出の行為によって専利品の販売価格、取引機会、広告宣伝効果などに不利な影響を与えることを分析した上、単独の販売の申出でも権利者が経済損失を被ると認定し、かつ、知的財産権保護の角度から単独の販売の申出も賠償責任を負うものと判決した。専利権者にとって良い判決であることは言うまでもない。専利権者は、侵害者の販売の申出の段階でタイムリに侵害を制止するだけではなく、一定の経済賠償を得るチャンスがある。一方、被告は、販売の申出のみが訴えられたとき、抗弁方式を変更する必要があり、法院に認められる損害賠償責任を軽減するために、合法的取得などの理由を積極的に利用して損害賠償について抗弁する必要がある。