著者:成城(知的財産)

 

 

 

 

今年4月26日に国家知識産権局から公示された2021年度特許復審・無効十大審判事件のうち、機械分野に関わる事件が五件ある。これらの事件は、社会的影響が大きく、焦点となる問題が典型的であることから、十大事件として選出されており、これらの具体的な事件における国家知識産権局復審・無効審理部の判断は、将来の実体審査及び審判に対して大きな影響を与えるものと考えられる。とりわけ、類似の事件においてそれを援用・活用することもできると思われる。

ここでは、これらの事件の経緯及びその焦点問題を簡単に紹介する。

一、「左心耳閉鎖装置」発明特許無効審判事件(無効審決第52508号)

特許権者:X社

無効請求人:蔡氏

特許番号:ZL201310567987.0

審査結論:特許権が無効と宣告された

本事件の係争焦点は、証拠1の開示により係争特許が新規性喪失の例外の猶予期間を享有するかである。証拠1は2013年7月18日にネットにより公開発表され、公開日が係争特許の出願日(2013年11月14日)前6か月以内にある。

請求人は、係争特許の請求項1、3、4の技術案がいずれも証拠1(外国語定期刊行物での論文)に開示されていることを主張した。

特許権者は、請求項を補正した後、2021年2月7日に「新規性喪失の例外声明」を提出した。該声明で、特許権者は、無効審判請求を受領してから初めて係争特許の技術に関連する証拠1の存在を発見し、かつ証拠1の著者の一人は特許権者と秘密保持契約を締結し、該著者は秘密保持義務に違反して証拠1を発表し、この状況について特許権者が知らなかったため、声明が特許法第24条第(三)号に規定する「2か月」に適合し、証拠1は係争特許の先行技術とすることができないことを主張した。

請求項人は、特許権者が主導的に証拠1を複数の賞の申請資料とすることにより、係争特許の出願日より前に証拠1の存在を知るべきことを主張した。

中国特許法第24条は以下のように規定している。

「専利を出願する発明創造について、出願日前6か月以内に以下の状況のいずれかがあった場合、その新規性を喪失しないものとする。

(一)中国政府が主催する又は認める国際展示会で初めて展示された場合。

(二)規定の学術会議又は技術会議上で初めて発表された場合。

(三)他者が出願人の同意を得ずに、その内容を漏洩した場合。」

中国「専利審査指南」第一部分第一章6.3.3節には、上記第(三)号の規定について以下のように記載されている。

「他者が出願人の同意を得ずに、その内容を漏洩したことにより公開されたことは、他人が明示又は黙認された守秘の約束を守らずに発明創造の内容を公開すること、他人が威嚇、詐欺又はスパイ活動などの手段により発明者、或いは出願人から発明創造の内容を得ることによって発明創造を公開することを含む。

専利を出願する発明創造について、出願日前6か月以内に、他者が出願人の同意を得ずにその内容を漏洩したことを、出願人が出願日前に知っているならば、専利出願時に願書で声明し、出願日より2か月以内に証明資料を提出しなければならない。出願人が出願日以降に知っている場合は、当該事情を知った後の2か月以内に新規性を喪失しない猶予期間を要求する声明を提出し、証明資料を添付しなければならない。」

これで分かるように、新規性喪失の例外の要求を満たすには非常に厳しいものである。本事件は上記第(三)号の規定に関し、(1)係争特許の関連技術内容が出願人の同意を得ずに漏洩されることであるか、(2)上記声明を提出する時点は、上記漏洩状況を知った後の2か月以内であるか、を確認する必要がある。

本事件において、合議組は、他人が秘密保持義務を保守しないことにより証拠1が漏洩されるかにかかわらず、特許権者が出願日より前に該証拠1の存在を知り、即ち、「2か月」の起算日は、特許権者が証拠1の存在を知った時点に準ずるべきであると認定した。そのため、合議組は請求人の主張を支持し、請求人が提出した証拠により、特許権者が2020年に関連機関に賞を申請したときに(2020年7月15日に公示又は2020年8月20日より前に申請)、本事件の証拠1を申請資料としたため、2020年8月20日より前に、特許権者が証拠1を知った(少なくとも知るべき)ことを推定できると認定した。一方、特許権者が実際に上記新規性喪失の例外声明を提出した日付は、「新規性喪失の例外」を提出する上記2か月を超えるため、当該猶予期間を享有すべきではない。

また、「知る/知るべき」ことについて、特許権者は、証拠1の存在ではなく、証拠1により係争特許が新規性を有しないことを認識したことを指すべきであると主張した。これについて、合議組は支持しなかった。また、特許権者がいう「知る」ことについて、合議組は以下のように認定した。新規性喪失の例外及び新規性判断のいずれにも「新規性」という用語を採用したが、両者の判断基準が異なる。その理由は、特許法第24条における「新規性喪失の例外」の立法主旨が、特許法第22条に規定する新規性又は進歩性を具備しないことを、当該条項が成り立つ必須条件とするものではなく、他人の過失行為により保護を喪失しないようにするからである。

特許権者は、特許査定された後初めて証拠1の存在を知り、特許法第24条第(三)号の規定が特許権者ではなく、特許出願人に対するものであることを更に主張した。これについて、合議組は、特許法第24条の条文に出願人が記載されているが、該条項の本音に基づいて、出願段階の出願人の義務だけではなく、出願が特許査定された後の特許権者の義務にもあると認定した。

最後、合議組は、特許権者が証拠1の存在を知った後の2か月以内に国家知識産権局に新規性喪失の例外を要求する声明を提出しなかったため、証拠1が係争特許の新規性又は進歩性を影響可能な先行技術になったことを認定した上、係争特許を全て無効と宣告した。

弊所のコメント:上述を纏め、新規性喪失の例外は、出願人の発明創造が特別な状況により早めに公開された場合出願人に適切な猶予期間を与える制度であるが、このような例外を享有するには、条件、限度があるものである。先出願制度に基づいて、出願人ができるだけ早めに出願を提出し、かつ特許出願を提出する前に自分の発明創造を厳密に保守するとともに、「新規性喪失の例外」の法的規定を十分に了解すべきである。そのため、同意を得ずに発明が他人に公開されたことを発見すると、出願人は、新規性喪失の例外を享有する声明を早めに提出し、証明資料を添付し、挙証を怠ることによって権利喪失になってしまうような状況を回避すべきである。

 

二、「軸流ファン」発明特許無効審判事件(無効審決第50181号)

特許権者:G社

無効請求人:Z社

特許番号:ZL200710026747.4

審査結論:特許権が無効と宣告された

係争特許は軸流ファンの構成に関する。

本事件は、使用公開とする先行技術、無効審判手続きにおいて一方側が依頼する鑑定証拠の効力を含む複数の焦点問題に関する。

(1)使用公開について

使用公開に係る特許権無効事件の肝心は、証拠効力及び証拠チェーンの完備性である。

本事件において、請求人は、証拠18~29(4台のファン設備に関し、以下証拠18~29のファン設備をファンⅡという)が使用公開の証拠チェーンを構成し、これらの証拠により、係争特許と同じ軸流ファンが特許出願日前に既に設計、製造、使用公開されたことを証明することを主張した。

具体的に、請求人は、ファンⅡの実物証拠、販賣発票及び測定データなどを提供したことによって使用公開の主張を支持した。特許権者は、これらの使用公開証拠の真実性及び関連性に疑義があり、かつファン設備の部品が交換される可能性があり、そのため、公開状態を確定できず、係争特許の有効性を評価することができないことを主張した。

この一連の証拠について、合議組は、請求人の主張を支持した。証拠チェックした結果、合議組は、エアコン(ファンⅡ)を非特定人(即ち公衆向け)に販賣した行為(販賣発票などに基づく)が係争特許の出願日前に存在し、かつ商慣習に適合することを認定した。また、エアコンの取付位置及び取り外し難度などの要素を考慮して、ファンⅡが取り付けられた後交換される可能性が低く、特許権者が反証を提出しなかった場合、ファンⅡが係争特許出願日前に公衆向けの公開販賣行為に該当するとともに、ファンⅡで示す技術案が係争特許出願日前に公衆が知りたいなら知り得る状態にあることを認定した。

弊所のコメント:「使用公開」の証明基準が割りと厳しいである。実務では、当事者が実物製品による使用公開を採用することが一般的である。一つの製品、特に日常生活品(例えば本事件のエアコン)は、誰でも購買により入手できるものである。該製品が特許出願日前に公開購買の方式により公衆に公開されることを証明できれば、関連技術内容は公衆が知りたいなら知り得る状態にあることを認定できる。ただし、販賣行為は通常挙証の前に発生したため、購買公開の具体的な時間が特許法に規定の「公開」に該当するか及び公開の具体的な内容について証明すべきである。

また、本事件におけるエアコンは日常生活でよく見られる製品であり、当事者は挙証において多角度から製品の使用公開及びその技術案を論証することができる。他類の製品について、異なる要素を考慮する可能性がある。例えば、大型製造設備について、如何にして購買行為により使用公開を証明するか、及びその部品が交換されないかを証明するのは、考慮すべきものである。

(2)一方側が依頼する鑑定報告証拠の効力について

本事件において、ファンⅡについて、請求人は対応する測定報告を提出した(証拠27と証拠29)。特許権者は、無効審判手続きにおいて一方側の依頼による測定は司法手続きにおける司法鑑定と異なり、一方側が依頼した測定機関の測定報告を根拠にすることができず、証拠29の測定報告の信用性が高くないことを主張した。

これについて、合議組は、証拠29の測定報告が鑑定意見に該当することを認定した。一方側が鑑定機関に依頼することによる鑑定意見について、「専利審査指南」に明確な規定がない場合、民事訴訟法の関連規定を参照すると認定した。合議組は、更に、「最高人民法院による民事訴訟証拠に関する若干規定(2019改正)」第41条の規定(「専門問題について一方の当事者が自ら関連機関や者に依頼して下した意見について他方の当事者が反論には十分な証拠又は理由を有し鑑定を申請する場合、人民法院は許可するものとする」)に基づいて、中国の民事訴訟法は、一方側が依頼する鑑定意見の証拠効力を排除することがないと認定した。

合議組は、証拠29が権威のある計量技術機関が出した鑑定意見であり、その測定プロセス及び方法には明らかな欠陥がないことを認定した。特許権者は、反論する証拠を十分に提出しない場合、その証拠効力を否定することができない。これを基に、合議組は証拠29の測定報告を認めた。

最後、合議組は、他の証拠と組合せて、係争特許がファンⅡの技術案に対して新規性又は進歩性を具備しないことを認定した。

弊所のコメント:一方側が依頼する鑑定報告の証拠効力から見ると、無効審判手続きにおいても民事訴訟の証拠判断ルールに準ずるものであり、一方側による鑑定意見が採用されないものではない。当事者は、その主張について積極的に挙証し、必要に応じて資質及び権威のある鑑定機関に依頼して鑑定意見を作成することができる。

上述を纏め、使用公開であれ一方側による鑑定意見であれ、当事者が完備な証拠チェーンを提出して証明すべきである。本事件の審理は、将来使用公開及び一方側が依頼する鑑定の事件に対して参考判例を提供した。