王茂華邰紅倪振華、郭煜等 King & Wood Mallesons 

中国の現行「専利法」は1985年から施行され、1992年、2000年、2008年三回にわたって改正が行われた。時代の発展に応じて、国務院の2012年の立法作業計画に基づき、国家知識産権局が専利法改正草案(意見募集稿)を2012年8月10日に公布し、意見公募を行った。8年にわたった検証・改正を重ねて、ついに2020年10月17日に、第十三次全国人民代表大会常務委員会第二十二回会議で可決され、改正後の「専利法」は2021年6月1日より施行される。

今回の改正は、専利権[1]者の合法的権益の保護強化、専利の実施と運用の促進、専利の権利付与制度の完備という三つの面に関しており、ポイントは以下の通りである。

  • 故意侵害に1~5倍の懲罰的損害賠償を適用し、法定損害賠償を1万~100万人民元から3万~500万人民元まで引き上げた(第七部分参照)。
  • 司法・行政の平行プロセスの薬品のパテントリンケージ制度を設立することにより、新薬の専利権者が薬品の承認申請段階における侵害品の市場流入を防げる(第八部分参照)。
  • 意匠専利の保護期間を15年まで延長したとともに、部分意匠制度、意匠の国内優先権を導入した(第一部分参照)。
  • 権利付与に不合理な遅延が発生した際の専利保護期間の調整制度、及び時間がかかる行政承認申請によって上市を遅らせた新薬の発明専利の保護期間の延長制度の設立(第五部分参照)。

今回の改正は、さらに職務発明、利益分与の推奨方式、開放許諾制度、専利権濫用等の内容に関し、改正のポイントを以下において逐条解説する。

一、意匠に関する改正

1、部分意匠制度の導入

改正後の「専利法」第6条には、部分意匠を保護対象とした。現行法においては、意匠の保護対象を製品の全体とし、「専利審査指南」には、ソックスヒール、つば、カップハンドル等といったような、製品の分割できない又は単独で販売できなくかつ単独で使用できない部分意匠には意匠専利権を付与しないと規定されている。しかし、社会的な分業化と製品設計のより精細化発展傾向の下で、製品の部分設計の保護を求める業界の声が高まりつつある。国家知識産権局が2015年4月1日に公開した改正案の説明文には、部分意匠制度を導入するよう明確に提案された。同説明には以下の通り指摘された、「現行法においては、製品の全体意匠のみを保護し、その一部が簡単な寄せ合わせ、入れ替え等により模倣されやすく、有効な保護が得られないため、我が国のデザインのイノベーションの健全な発展には不利である。したがって、イノベーション主体の部分意匠に対する保護ニーズを満たし、国際意匠制度の発展傾向に応じるよう製品の部分意匠を保護対象とすることを提案する」。なお、審査の実務から見れば、部分意匠制度の導入により、出願人と審査官を困らせてきた、完全とした製品の設計とは何であるかの問題をなくし、出願にせよ審査にせよ新しい設計の判断に集中し、より客観的、正確に判断することが期待できる。

2、意匠の保護期間を15年まで延長

改正後の専利法第42条によると、意匠専利権は保護期間が15年である。すなわち、意匠の保護期間を10年から15年に延長した。

我が国の意匠の10年の保護期間は、1992年の専利法に初めて記載されてから、ずっと改訂が行われていない。現行法は、TRIPS協定に規定された最低の保護期間の10年基準を採用したが、意匠の経済価値及び市場競争での重要性が日増しに高まり、多くの国は、意匠の保護期間を延長した。我が国は、ハーグ協定に加入する需要に応じるとともに、より美観に富み商業的価値を有する意匠創作を促進する立場から、現行の10年の保護期間を15年に延長した。保護期間の延長対象は、2021年6月1日に有効な意匠専利権及び出願日が2021年6月1日前の意匠出願まで及ぶかが、専利権者と公共の利益のバランスに関わるため、さらなる立法により明確化する必要がある。

3、6か月の意匠の国内優先権制度の新設

改正後の専利法第29.2条には、意匠の国内優先権が規定され、意匠出願を中国で初めて提出してから6か月以内に、改めて国務院専利行政部門に同じ主題について専利出願を提出する場合、優先権を主張可能である。

国内優先権の客体は、現行法では発明と実用新案のみであり、改正後の専利法では出願の全種類まで拡げた。意匠専利の審査周期が短いため、極端な場合、6か月の国内優先権期間は出願人の権利回復の手段ともなり得る。例えば、優先権期間内に、意匠出願が拒絶査定されたり取下げ見なしになったりしたら、優先権制度を利用して、関連欠陥を克服し改めて出願可能である。

二、職務発明、奨励及び報酬の推奨方式の関連改正

改正後の専利法第6.1条に、「当該従業先は法にしたがいその職務発明創造の専利を受ける権利と専利権を処分でき、関連発明創造の実施と運用を促進する」と追加された。これは、従業先が法にしたがい専利を受ける権利と専利権を処分することを明確にし、指導する。

改正後の専利法15条は、元の16条に「国は、専利権が付与された従業先が、株、オプション、配当等の形で財産権による激励を実施し、発明者又は創作者にイノベーションによる収益を合理的分け与えるよう推奨する」を第2項として新設したものである。現行の専利法実施細則第76条~第78条の職務発明創造の発明者又は創作者への奨励・報酬の関連規定によると、奨励・報酬の態様及び金額は約定や社則、専利法実施細則の規定にしたがって支払える。今回の改正は、企業が実際に採用した株、オプション、配当等の収益分与体制を吸収し、従業先が多様な方式により発明者や創作者とイノベーションによる収益を分け与えるよう推奨し、科学技術の発展を促進し、専利の実施運用を進める。後続の専利法実施細則の改正には同条に規定された収益分与体制を奨励・報酬の方式に取り入れる可能性がある。

三、専利権濫用禁止の関連改正

改正後の専利法第20条によると、専利出願及び専利権の行使は誠実信用の原則に従わなければならない。専利権を濫用し公共の利益又は他人の合法的権益を侵害してはならない。専利権を濫用し、競争を排除又は制限し、独占行為に該当場合、「中華人民共和国独占禁止法」に基づき処理する。同条第1項は、専利権濫用の規制に関し、第2項は、専利権濫用による競争の制限又は排除についての独占禁止救済に関するものである

1、専利権濫用の規制について

専利権濫用の行為に鑑みて、業界から何回にもわたって特別立法の声があげられたが、今回初めて専利法に登場した。誠実信用原則は、民事活動規則の一つであり、2021年1月1日より施行される「民法典」の第7条にも規定された。専利権濫用の判断は誠実信用原則に違反するかに準拠する。目下の司法実務において、専利権濫用の多くは悪意訴訟として具体化され、以下のものが含まれている。

-(2016)蘇04民初327号事件のように、専利権者は実用新案と意匠の無審査体制を利用して、明らかに権利付与の条件を満たしない技術案を悪意で権利化させ、その後に、関連主体を提訴する。

-(2015)京知民初字第1446号事件のように、無効審判中に改正が行われたのに、原告は侵害訴訟においては改正前の請求項を主張した。

-(2017)粤民終2782号事件のように、原告は、提訴の際意匠専利権の出願日前に当該意匠と類似した製品がすでに公開販売されたことを知りながらも、提訴を続けた。

なお、権利行使の際、適切な限度を超え、大量の訴訟を通じて競合相手を打撃しようとすることも専利権濫用に該当し得る。例えば、(2018)粤03民初170号事件において、被告が6件の専利権に基づき、同一メーカー及び異なるユーザーに民事訴訟を30件余り、専利侵害の行政処理請求を20件余り提起した。これは明らかに正当な権利行使の限度を超え、誠実信用の原則に違反し、原告及びその提携先のビジネス経営にマイナスな影響を与えてしまい、当該行為が専利権の濫用行為であり、不正競争に該当すると法院に認定された。専利法に専利権濫用の行為を規制した後、法院は直接専利法第20条を適用し裁判する可能性が非常に高い。

2、専利権濫用による競争の排除又は制限の独占禁止救済

技術と独占禁止との関係は「契約法」[2]の技術契約部分の第329条に最初に見られた。「最高人民法院による技術契約紛争案件の審理における法律適用若干問題の解釈」[3]第10条では、技術の違法的独占と技術的進歩の妨害をさらに細分化した。専利の面においては、専利に関連する独占協議及び専利を利用した市場の支配的地位の濫用は「国務院独占禁止委員会による知的財産分野の独占禁止指南」[4]で細分化された。独占協議は主にクロスライセンス協議として具体化され、市場の支配的地位の濫用行為は専利(特にSEP)ライセンス及び訴訟に関連しており、独占のレッドラインに触れる行為は、過度な高価格設定、抱合せ販売、許諾拒否、独占又は排他的ライセンスバック設定、専利の有効性疑義禁止、取引の制限又は禁止、差別的待遇等を含む。SEP専利を利用して実施者を提訴することにより不合理なライセンス条件を受けさせる行為が独占行為に該当するとすでに先行事例で認定された[5]。工商管理行政総局による「知的財産権濫用による競争排除・制限行為の禁止に関する規定」[6]の第13条にも、標準の制定中にわざと標準必須専利情報を隠蔽し、または当該権利の主張を明確に放棄したが、後に実施者に当該専利を主張する場合、独占行為に該当する可能性があると規定された。

以上の分析から分かるように、第20条の専利権濫用の関連規定を新設したが、司法実務とその他の関連法律規定にも専利権濫用及び関連した独占行為を規制し、当該規定は現行の法律システムに実質的な新しい内容を何ら増やしていないが、今後の法律適用の面においては、法院による当該規定の直接適用が可能になる。

四、専利出願の関連条文の改正

1、新規性喪失例外のパターンの新設

改正後の専利法第24条によると、出願日前6か月以内に、国が緊急状態または非常事態になった際、公共の利益の目的のため初めて公開された場合、新規性を喪失しないとする。

これは、新規性喪失例外の新設パターンであり、現行法第24条に規定された三種類の新規性喪失例外のパターンをもとに豊富に拡げたのである。公共の利益を脅かす緊急事態が発生する又は発生しようとする際にまだ出願されていない新技術について公開後においても専利を受けられるよう出願人の権利を十分に確保するために、改正されたものである。

2、原子核変換方法は明確に保護対象から除外

改正後の専利法第25条は、原子核変換方法を保護対象から除外した。

現行法には原子核変換方法が専利保護が受けられないとの関連規定がないが、専利審査指南には、権利化できないと明確に規定されている。当該改正は、専利法の規定を現行の専利審査指南の規定と一致させるために行われたものである。

原子核変換方法については、核分裂と核融合反応の特殊な背景と技術の複雑性、及び国家のエネルギーセキュリティへの重要な影響から、各国は普通国家レベルで代替エネルギーとして研究開発が行われる。我が国は、核反応(特に核融合反応)を代替エネルギーとした研究は主に政府背景の研究機構が担当し、その研究にすでに莫大な人的・物的資源を投入している。目下の研究進展から我が国は核反応を代替のクリーンエネルギーとする応用面での研究は海外の一部の先進国とはまだギャップがある。この類の技術が個人や会社に独占・保有されると、我が国の将来のエネルギーセキュリティの脅威となり、国家安全と重大な利益を損害から守るように、全体的には保護対象とはできない。改正後の条文は審査指南の規定と一致するため、具体的な審査プロセスもより円滑になる。

3、当事者による優先権書類の提出期限緩和

改正後の専利法第30条によると、出願人が発明、実用新案専利の優先権を主張する場合、出願時に書面による声明を提出しなければならず、かつ最初に出願した日から16か月以内に最初に提出した専利出願書類の副本を提出しなければならないとする。それに対して、現行法の提出期限は出願の提出日から3か月以内である。実務においては、優先権副本の多くは外国で発生し、海外書類収集における客観的な困難さ及びその他の突発性事情により出願人に予期せぬ影響を与えるため、三か月の優先権書類の提出期限が一定の困難さが伴われるため、国際条約や他の主要国の特許局の規定を参照し、提出期限を最初に出願提出した日から16か月以内とした(改正前と比べると、実質的に少なくとも1か月延長されることになる)。これにより、出願人はより余裕をもって関連書類を準備できるようになる。

五、専利権保護期間の調整及び延長制度に関する改正

改正後の専利法第42条は、元の42条に専利権保護期間調整制度と専利権保護期間延長制度を二項として新設したものである。

1、専利権保護期間の調整制度

改正後の専利法第42.2条によると、出願日から4年満了し、かつ実体審査請求日から3年満了した後に発明専利権が付与された場合、国務院専利行政部門による発明専利の権利化の過程で起きた不合理な遅延について専利権者は専利権の存続期間の補償を請求できる。

2、専利権の保護期間の延長

改正後の専利法第42.3条によると、新薬の上市承認審査の期間を補償するよう、中国で上市許可を得た新薬の発明専利について、国務院専利行政管理部門は、専利権者の請求に基づき、専利権保護期間の補償を与える。補償期間は5年を超えないものとし、新薬上市後の専利権存続期間が計14年を超えないものとする。

改正後の専利法は、専利権保護期間の調整制度、延長制度について上位的な規定のみをし、不合理な遅延についての判断、補償期間の計算、調整後・延長後の保護期間の公示等の具体的な実施について触れておらず、後続の司法解釈や審査指南の改正を通じて完備させる必要がある。

六、専利実施の特別許可に関する条文の改正

1、章名的修改及体系上的完善 章の名称の改正及びシステムの改善

改正後の専利法第6章は、強制許諾の内容を全部残すとともに、第48条の「専利の公共サービスを強化し、専利の実施及び運用を促進する」という規定を増やした。同時に、現行法の第14条の国有企業・事業団体の発明専利の国務院の許可による特別許諾の規定を改正後の第49条とし、第50条~第52条までの開放許諾の規定を新設した。現行法の第48条~第50条の強制許諾の規定を対応的に改正後の第53条~第63条とした。

改正後の専利法第6章は、強制許諾に限らず、国有企業・事業団体の発明専利の国務院許可による特別許諾、開放許諾、強制許諾といった性質上一定の特殊性があるものを含めるようになるため、協議によるものと区別付けるように第6章の名称を対応的により上位的な「専利実施の特別許諾」と改めた。

2、開放許諾制度の新設

改正後の専利法第50条~第52条は、開放許諾制度についてより詳細に規定した。第50条は、開放許諾声明の提出、撤回方式を規定し、第51条は、開放許諾を通じて許諾を受ける方式や、開放許諾実施期間中の年金の減免措置、開放許諾を設定した専利権についての制限を規定し、第52条は、開放許諾に発生した紛争の解決メカニズムを規定した。以下においてそれらについて解読する。

第一に、改正後の専利法第15条によると、実用新案、意匠に関する開放許諾声明については、専利権者が専利権評価報告書を提供するとしたが、評価報告の結論に対する実質的な要求を規定しなかった。実用新案、意匠専利権が専利権評価報告において登録査定の条件に適合しないと認定されたら開放許諾声明の条件を満たすものかを考えさせてしまう。弊所は以下の通り考えている。「法律には専利権評価報告書の結論を要求するような規制がなく、かつ専利権評価報告書の結論が専利権の有効性の判断に参考的な役割を果たすのみであり、法律効力を持つ有効的なものではない。潜在的なライセンシーは開放許諾を受けるかを判断するために公開ルートを通じて専利権評価報告書が調べられるため、専利権評価報告の結論を制限する必要がない。」

第二に、改正後の専利法第51条は、開放許諾制度の下での専利権者とライセンシーの利益バランスを具体化した。同条規定によると、専利権者は開放許諾声明を出した後でも、依然としてライセンシーと協議によりライセンス契約を結べる。かつ、この場合の許諾条件が開放許諾声明における許諾条件と同じであると法律には特に限定されていない[7]。但し、専利権者が別途設定した許諾協議が開放許諾を通じて許諾を受けた被許諾者の利益に影響しないように改正後の専利法第51条には許諾を通常実施権に限り、当該専利権について独占・排他的な許諾を設定してはならないと規定された。

第三に、改正後の専利法には、開放許諾声明の提出と撤回が規定されたが、開放許諾声明の変更について規定されなかった。専利権者は開放許諾声明を撤回できるため、撤回後の同一専利に基づいた別内容の開放許諾声明(例えば、変更された許諾料の支払い方式や基準)の再提出が制限されなかったため、事実上、「撤回‐再提出」を通じて開放許諾声明を改められる。これに基づいて、専利権者の利便性、市場環境の変化による専利価値の変化から提出済みの開放許諾声明を改められるよう対応する開放許諾声明の変更制度を設立し、かつ第50.2条と似たように、改められた開放許諾が先行の許諾の効力に影響を与えることはないとすべきである。

七、専利権保護の関連条文の改正

専利権者及び利害関係者の合法的権益の保護を強化するよう改正後の専利法第7章は専利行政法律執行、損害賠償の計算、訴訟前の保全、訴訟時効等について改正が行われた。

1、専利詐称行為への処罰強化

改正後の専利法第68条によると、専利を偽称した場合、法に基づき民事責任を負うほか、専利法の執行を担当する部門が是正を命じかつ公告し、違法所得を没収し、違法所得の5倍以下の罰金を科すことができる。違法所得がないもしくは違法所得が5万元以下の場合、25万元以下の罰金を科すことができる。犯罪に該当する場合、法に基づき刑事責任を追及する。同条に規定された行政処罰は現行法より明らかに重く、専利詐称行為への処罰を強化した。

2、国務院専利行政部門に専利権侵害紛争を処理する権限を与え、地方人民政府の専利管理部門による専利侵害紛争処理のプロセスを簡素化

改正後の専利法第70.1条の規定によると、国務院専利行政部門は、専利権者又は利害関係者の請求に応じて、全国で重大な影響を及ぼす専利権侵害紛争を処理することができるとし、国務院専利行政部門(すなわち国家知識産権局)に専利権侵害紛争を処理する権限を明確に付与した。但し、全国で重大な影響を及ぼすという文言の定義及び判断は後続の司法解釈又は実施細則を制定することより完備させる必要がある。例えば、侵害規模または侵害による獲得利益が多大である、被疑侵害品が公共の利益(例えば薬品、医療機械)に関する、国家安全に関わる等の場合の専利権侵害紛争は全国で重大な影響を及ぼすと定性化できる。

同時に、地方人民政府による専利権侵害紛争処理のプロセスを簡素化するよう改正後の専利法第70.2条には、さらに地方人民政府の専利業務管理部門による特定種類の専利権侵害紛争事件の併合処理及び区域を跨いだ処理が規定された。当面の専利権侵害紛争の司法救済における管轄法院の集中化から見ると、上述の行政救済規定は実際には一定の程度で管轄集中化に合わせたものである。それにより、極端な場合での地方保護主義を避け、裁断の尺度を統一する。

3、損害賠償の計算方式の完備、懲罰的損害賠償制度の導入、権利人の立証が難しい課題の解決

改正後の専利法第71条は、主に、侵害者の侵害による獲得利益を権利者の実際の損失と同じ第一順位に引き上げた損害賠償の計算方式として具体化し、かつ、1~5倍の懲罰的損害賠償を導入し、法定損害賠償を1万元以上100万元以下から3万元以上500万元以下に引き上げた。また、権利人の立証責任を軽減するように「最高人民法院による専利権侵害紛争案件の審理における法律適用若干問題の解釈(二)」の第27条の損害賠償の立証責任の転換の関連規定を改正後の専利法第71.4条とした。

4、財産保全、行為保全の適応的で完備した改正

改正後の専利法第72、73条は訴訟前の財産保全、行為保全、証拠保全の規定であり、改正は主に以下の三つの面として具体化した。その1、専利権者・利害関係者の権利実現の妨害行為が訴訟前の財産保全及び行為保全を申し立てる原因の一つとした。その2、関連行為の停止命令を一定の行為を行う又は停止するようと改めた。その範囲がより明瞭になり、かつ現行の民事訴訟法第100条の文言と統一された。その3、訴訟前の財産保全、行為保全、証拠保全の処理期限、担保、保全の解除、保全錯誤の救済等のプロセスは民事訴訟法及び関連司法解釈に明確に規定されたため、今回の改正では、削除された。これは主に立法技術上の調整であり、部門法同士の冗長を避けるために行われたものである。

5、訴訟時効関連規定の適応的な改正

改正後の専利法第74条は訴訟時効に関する規定である。2017年10月1日より施行された「民法総則」は普通の訴訟時効を3年と改め、実務において専利権侵害事件はこれに基づき3年の訴訟時効を適用している。今回の改正は適応的に行われ、現行の「民法総則」及び施行すべく「民法典」の規定と一致するように訴訟時効の起算点を現行法の「侵害行為を知る又は知り得る日から」から「侵害行為及び侵害者を知る又は知り得る日から」と改めた。

八、薬品のパテントリンケージ制度の関連改正

改正後の専利法第76条は薬品のパテントリンケージ制度が新設された。改正後の専利法第76.1条の規定によると、薬品の上市承認申請中に、他人の専利権を侵害する可能性がある場合、関係当事者は登録申請する薬品が他人の専利権保護範囲に入るかを判断するよう人民法院に提訴することができる。国務院薬品監督管理部門が規定の期間内に人民法院による発効した判決に基づき上市承認を一旦止めるかを決定する。また、改正後の専利法第76.2条の規定によると、関係当事者が登録申請の薬品の関連専利権紛争を国務院専利行政部門に行政裁決を求められる。改正後の専利法第76.3条においては、国務院薬品監督管理部門と国務院専利行政部門に具体的なリンケージ方法の制定を授権し、国務院の賛成を得た後実施すると規定された。

1984年、米国は「医薬品価格競争および特許期間回復法」(ハッチワックスマン法とも言う)を通じて二種類のアンバランスを消去するよう図った、(1)専利権者(先発製薬メーカー)が監督管理部門から承認が得られず上市できなく、合理的な特許保護期間もしくは全く特許保護が受けられない事態を招く、(2)特許が切れる前に競合相手(後発製薬メーカー)による承認目的の実験が一切許されないため、ジェネリック薬品は特許が切れてからすぐに市場進入できない。当該法案のフレームの下で、米国はオレンジブック制度、Bolar例外、薬品のパテントリンケージ制度、試験データ保護、特許保護期間の補償等を中心とした薬品の特許保護システムを構築した。新制度の下、薬品監督行政機関、特許行政機関、司法機関が協調し合い、米国の先発薬品と後発薬品の均衡取れた発展と共同繁栄を促進した。

我が国は第三次専利法改正の際、Bolar例外の制度[8]を導入した。当該制度の導入により、国内のジェネリック薬品メーカーにはより緩和された環境を提供した。第三次専利法改正後、特に近年来、我が国の医薬工業の規模の増大及び医薬企業の研究開発能力の強化にしたがって、社会各界は我が国の薬品専利保護システムのさらなる改善を呼び掛けている。今回の専利法改正において、薬品のパテントリンケージ制度と薬品の専利保護期間の延長制度を同時に導入した。米国のオレンジブック制度に対応する上市薬品の専利情報登記制度は薬品のパテントリンケージ制度の実施弁法に具体化される[9]と想定している。薬品の試験データ保護制度については、国家薬品監督管理局は2018年にすでにその詳細規定の意見公募草案を公開した。米国医薬工業の発展に巨大な役割を果たした「医薬品価格競争および特許期間回復法」のコア内容はすでに全部我が国に移植したとうかがえる。これらの一連の制度の確立から、我が国が後発メーカーを保護するとともに先発メーカーの発展を促進するねらいが見受けられる。

改正後の専利法第76条によると、我が国の薬品のパテントリンケージ制度は米国とずいぶん違うものである。我が国には米国の擬制侵害の概念がなく、承認申請の薬品が特許の請求範囲に入るか否かで侵害訴訟をスタートさせる。米国の薬品のパテントリンケージ制度とはより大きな違いは、我が国では行政プロセスもしくは司法プロセスの両者によってスタートできることにある。専利侵害紛争についての行政救済は我が国の知的財産権制度の特色の一つであると見られてきた。行政機関による侵害紛争処理はコストが低く、効率がよく、専門性の長所があるため、行政救済を求める侵害紛争事件が多くある。以上の行政プロセスの長所があるため、この度の薬品のパテントリンケージ制度設立の際、行政プロセスを導入し、行政と司法のダブルトラックの状態を形成した。情報筋によると、同行政プロセスは国家知識産権局の複審と無効審理部が担当する可能性が高い。

注意されたいのは、国務院専利行政機関が特定のジェネリック薬品申請人の特定のジェネリック薬品が関係専利権の保護範囲に入っているかを判断し、その結論は関係専利権の有効性にはいうまでもなく、その他のジェネリック薬品申請人の類似のジェネリック薬品が関係専利権の保護範囲に入っているかにも何ら影響を与えない。したがって、当該行政決定は私的効果のみあり、公的効果がない。当該行政決定に不服とする場合、法院に行政訴訟を提起できる。

今回改正後の専利法は、我が国では2021年6月1日以降に薬品のパテントリンケージ制度を実施すると明確化した。業界は現在当該制度の具体的な実施細則及び移行方法に注目している。

[1] 専利には特実意が含まれる

[2] 2021年1月1日より「契約法」が廃止され、関連規定は「民法典」へ整合

[3] 司法解釈[2004]20号

[4] 2019年1月4日、国務院独占禁止委員会発行

[5](2013)粤高法民三終字第306号判決

[6] 2015年4月7日、国家工商行政管理総局令第74号公布

[7] ここでは、SEPに要求されたFRAND義務を考慮しない。

[8] 現行専利法第69.5条

[9] 2020年9月11日に公布された「医薬品専利紛争早期解決メカニズム実施弁法(試行)の意見募集稿」に対応的に規定済み