杨帆、金琳懿、龚智彦 公司业务部 金杜律师事务所

  1. 前言

2年にわたる意見募集を経て、2020年9月22日、中国国家薬品監督管理局が「医薬代表届出管理弁法(試行)」[1](以下、「弁法」という)を公布した。「弁法」は医薬品情報担当者(以下、「MR」という)の学術プロモーション行為の規範化を趣旨として、医薬品市販承認取得者(以下、「MAH」という)がその雇用又は授権するMRの届出及び管理に責任を負うものと明確に規定した。

偶然にも同時期、日本においても、MR関連政策の一連の改革が行われている。2020年10月23日、日本の公益財団法人MR認定センター(以下、「MR認定センター」という)が「MR認定要綱」(以下、「要綱」という)を公布し、2021年4月から施行される。この「要綱」も、MRの行動規範を定めたものであるが、「弁法」と異なる点は、「要綱」は主にMR認定制度自体の改革に関するものである。具体的には、「継続教育」を中心に、MRの研修制度を詳細化し、医療技術の向上に貢献できるハイレベルなMRを養成することを目標に、MRを改めて定義し、研修制度の一連の改革を行った。

本稿は、MRに関する日中両国の新規定を比較したうえ、在中日系企業を含む製薬企業においては「弁法」がもたらす新たな挑戦にどのように向き合うべきかにつき検討するものとしたい。

  1. MR新規定公布の背景

医薬品販売分野におけるコンプライアンス問題が近年の中国においてホットなトピックになっている。医療衛生体制改革を背景に、医薬品販売業務受託機関(以下、「CSO」という)及びMRに関する商業賄賂、リベート付販売等は、以前から監督管理・法執行の重点分野であった。それとともに、科学技術の絶え間ない進歩により、高単価で斬新な技術による新薬が数多く開発される中、医療機関や企業に認められ、信頼されるMRを養成し、薬品の適正な使用方法を伝えていく必要性が日増しに高まっている。MRを学術プロモーションの道に戻らせ、不正な普及行為がもたらす商業賄賂といった問題を減らすこと、これが「弁法」が公布された重要な背景と使命である。

一方、日本のMR認定センターが2020年8月に公表した「事業構造改革検討会議検討結果報告書」及びその公式サイト[2]の情報を踏まえると、コンプライアンス問題が多発し、注目を集めている点に加え、日本において新たな規定が公布された背景には、次の要因、すなわち①近年、MR業界の関連規範が厳格化しており、医療機関がMRによる訪問の規制を強化していること、②医療業界におけるICT(Information and Communication Technology)の発展に伴い、リモート訪問が可能になったこと、及び③MRの全体的なレベルが高くないため、医療機関及び製薬企業の期待に達していないことも関係すると言われている。そのような背景ゆえに、「要綱」は「弁法」に比べ、MRの研修及び試験についてより詳細に規定していると言える。

  1. MRの定義

「弁法」によると、MRとは、MAHを代表して、中国国内において薬品情報の伝達、やりとり、報告に従事する専門人員とされている。その主な任務は、①医薬品の販売促進計画の立案、②医療従事者への医薬品に関する情報の伝達、③医療従事者による会社の医薬品の適切な使用の支援、④薬品の臨床使用状況と病院でのニーズに関する情報の收集と報告である[3]

一方、「要綱」によると、MRとは、企業を代表し、医薬品の適切な使用及び薬物療法の向上に貢献するために、医療機関の関係者との面談又は電子ツール等を用いた情報交流を通じて、医薬品の品質・有効性・安全性等に関する情報の提供・収集・伝達を主な業務として行う者をいう[4]

これら日本と中国のMRに関する定義を比較してみると、両国の定義は比較的類似しており、その任務には薬品の販売行為が含まれておらず、いずれも薬品情報及び臨床使用状況の伝達、收集、やりとりがMRの主な任務とされている。なお、注意すべき点として、「弁法」はMRが販売業務に従事してはならないことを再び強調し、MAHがMRに対して薬品販売業務の担当、薬代の受取及び領収書の処理等を要求してはならないことも規定している。

この点、「要綱」においてMRが販売業務に従事してはならないことは言及されていないが、日本でも近年、製薬企業による従来の「売上至上主義」ではない評価体系の構築を求める声が高まっている。一般に、現在の日本の製薬企業によるMR評価は、主に上司の評価(薬品及び適応症状の知識、専門度)、医師との面談回数、医師・薬剤師の薬品説明会及び講演会への参加率、医師・薬剤師の評価、コンプライアンス性及びPMS(Post Marketing Surveillance)等の指標から構成される。

中国の製薬企業が自ら又はCSOを通じて薬品の学術プロモーションを行う場合、既に日本の製薬企業で採用しているMRの管理・評価体制を参考に、総合的な学術プロモーション指標(薬品の売上げを主要な指標とするのでなく)をもってMRの評価及び考課を行うことが考えられる。

  1. MAHの届出責任及び公示義務

「弁法」によると、MAHは、MAHを代表して行動する全てのMRについて、その届出及び管理について責任を負う(MAHが国外企業である場合、その指定する国内代理人が当該責任を負う)とされている[5]。MAHは、届出プラットフォームに情報の届出を行うほか、自ら会社のウェブサイト又は関連業界協会のウェブサイトでその雇用又は授権したMRの情報を公示しなければならない[6]。MRの届出情報に何らかの変更が生じた場合、MAHは30営業日以内に届出情報の変更手続(関連業務の従事を辞め又は授権が停止されたMRを含む)を行うと同時に、ウェブサイトにおいて公示情報の変更をしなければならないとされている[7]

一方、「要綱」はMRの公示義務について定めていないが、その条文及び認定センターの公式サイトの情報を踏まえると、MR認定センターで登録した企業及びCSOは、それぞれMR業務を担当する在籍従業員の認定申請と管理について責任を負う。将来、MR認定センターが公示プラットフォームを構築するか否かについては、今後の関連する政策が待たれる。

日本と比較してみると、中国の「弁法」に定める届出及び公示に関する要求は、監督管理部門の立場から、MAHが雇用及び授権するMRに対して統一的、持続的な公示、監督及び管理を行うものである。なお、中国におけるMRの比較的高い流動性に鑑み、絶えず変動するMRチームの構成員への動態管理が実現できるよう、かつ届出と公示の要求を満たすべく、製薬企業の社内管理方針は、中国の労働法や個人情報保護の規定を踏まえて調整する必要もある。

  1. 専門、学歴及び業務経験の強制要件

「弁法」の第1次意見募集稿[8]においては、MRに対する専門、学歴及び業務経験に関する強制要件が定められていたが、その後の意見募集稿及び正式に公布された「弁法」においては、MRに対する当該強制要件が削除された。「要綱」においても同様に当該強制要件について具体的な要求が定められていない。

MRの専門、学歴及び業務経験に関する強制要求を廃止した理由は、これらの参入に際しての障壁が届出又は認定手続の性質と一致しないことにあると理解される。しかしながら、中国又は日本を問わず、実務上、企業又はCSOは、MRの採用にあたり、専門、学歴及び業務経験について一定の要求を依然として設けている。つまり、法規及び政策上のこれら強制要求の廃止は、MRに対してこれらを要求しないことを意味するのではなく、これらの面における決定権を企業に委ねたということである。

  1. 研修要件

「弁法」においては、MAHが雇用又は授権するMRの研修について具体的な規定が設けられておらず、禁止行為に従事しかつ情状が重大なMRについて、MAHは同人への学術プロモーション活動等の授権を一時的に停止し、同人に対して職場研修を実施し、考課に合格した後に改めて授権を確認することのみを要求している[9]。当該条項から見れば、「弁法」は研修プロセス及び考課基準について強制規定を定めておらず、MRに対する当該継続研修及び考課のイニシアティブは企業側にあるといえる。

相対してみると、「要綱」は、MRの認定前及び認定後における研修や試験等について比較的詳細に定めており、その主な内容はMRの資質を取得するために必要な試験と研修に関するものであり、試験に合格して認定証及びバッジを取得していない者は、MR業務に従事してはならないとされている。

簡単にいうと、日本におけるMR認定には、「導入教育」と「継続教育」の2つが含まれる。MR業務従事予定者は必ず導入教育を受けなければならず、導入教育はさらに基礎教育と実務教育に分けられる。基礎教育課程の修了後には1年に1回の認定試験を受けなければならず、認定センターの試験委員会がその合否を決定する。MR業務従事予定者による認定証新規交付の申請要件は、認定試験の合格、実務教育の修了(6カ月の業務経験)であり、これらの要件を充足した場合に認定証が交付される。(具体的なプロセスは、認定センターに登録された企業又はCSOに入社したかにより異なる)。

また、認定証は5年ごとに更新される。既に認定を受けMR活動に従事している者も継続教育を受けなければならず、修了要件を満たしたと認められた場合に認定証が更新される。

中国の製薬企業においては、日本の研修・教育制度を参考に、中国において雇用又は授権したMRに対し持続的な研修及び教育を実施することができる。これにより、MRの専門能力及び業務レベルの向上というニーズを満たすと同時に、「弁法」の定める職場研修という法令順守の要求を満たすことができる。

  1. 禁止行為及び処罰条項

「要綱」自体は関連する禁止行為や処罰について定めていない。一方、「弁法」はMR及びMAHが従事してはならない一連の活動について強調し、具体的には、薬品販売任務の担当、薬代の受取及び領収書の処理等の販売行為、医師個人が発行する薬品処方箋数量の統計への参与、医療機関の内部部門及び個人に対する寄贈、助成金、協賛の直接提供等の行為が挙げられる[10]

これらの禁止行為に関して、「弁法」は届出プラットフォームにおいてMAH又はMRによる信用喪失や法令違反・規定違反に関する情報を公示しうる旨を定めたものの、MAH又はMRを取り締まるための追加の権力を監督管理部門又は届出プラットフォームに付与しておらず、規定に違反して各種禁止行為を行った場合の処理方法についても具体的に定めていない。したがって、MAH又はMRが当該禁止行為を行った場合、その他の関連規定に違反したかによって具体的な監督管理部門を特定する必要がある。また、「薬価と入札・購買信用評価制度の構築に関する国家医療保障局の指導意見」により、入札・購買信用評価制度が徐々に構築されていることは注目に値する。将来、商業賄賂等の不正行為は薬価と入札・購買に関する信用評価の対象範囲とされるため、これはMAHによる製品の入札・購買活動に影響を与える。

  1. まとめ

以上を総じて、日中両国の新規定におけるMRの職務に対する定義はいずれも「販売担当」ではなく、「学術担当」であるといえる。中国の「弁法」は、監督管理部門の立場からMAHが雇用又は授権したMRに対して統一的、持続的な公示、監督及び管理を行うこと、MAH及びMRによる普及活動をさらに規範化することに重点を置く。これに対し、日本の「要綱」は、MR認定資質の取得の観点から、MRの研修及び考課について詳細な要求を定めることに重点を置く。日中両国の新規定の異同への理解を深めることは、中国において事業展開する製薬企業が内部管理方針や考課方針をより適切に調整することに役立つ。製薬企業は中国の「弁法」におけるコンプライアンス要件の充足を念頭に置きながら、日本の制度を参考に、MRの専門能力の充分な研修及び向上を目指して、総合的な学術プロモーション考課指標をもってMRの「販売担当」から「学術担当」への復帰を推進することができると思われる。

[1] 2020年12月1日施行。

[2] https://www.mre.or.jp/ 参照。

[3] 「医薬代表届出管理弁法(試行)」2条。

[4] 「MR認定要綱」2条1項。

[5] 「医薬代表届出管理弁法(試行)」4条。

[6] 「医薬代表届出管理弁法(試行)」8条

[7] 「医薬代表届出管理弁法(試行)」9条。

[8] 2017年12月22日公布。

[9] 「医薬代表届出管理弁法(施行)」13条2項。

[10] 「医薬代表届出管理弁法(施行)」12条、13条1項。