桂 紅霞[1] 、劉 思岩、趙 影会  金杜法律事務所 知財訴訟部

2020年11月11日に第13次全国人民代表大会常務委員会第23回会議で「中華人民共和国著作権法」改正が可決され、十年に渡った著作権法第三次改正(以下は「本改正」と称する)が終了した。新たに可決された「著作権法」(以下は「2020年「著作権法」と称する」)は計6章67条からなり、2021年6月1日より施行される。

2011年に著作権法の本改正が始まって以来、何度も社会各方面から広く意見を募集した。改正の経緯は以下のとおりである。

2012年3月31日に、国務院立法作業計画により、国家版権局が「中国人民共和国著作権法(改正草案)」を作成し、意見を募集した。

2014年6月6日に、国務院法制弁公室が「中国人民共和国著作権法(改正草案送審稿)」を公表し、意見を募集した。

2020年4月26日に、第13次全国人民代表大会第17回会議で「中国人民共和国著作権法(改正案草案)」を審議したうえ4月30日に公開し、社会各方面から広く意見を募集した。

2020年8月17日に、第13次全国人民代表大会第21回会議で「中国人民共和国著作権法改正案(草案二次審議稿)」を審議したうえ公開し、社会から広く意見を募集した。

公開された以上の各バージョンには変更点が多かった。2020年「著作権法」の可決にあたり、新法の誕生を祝し、2020年「著作権法」と現行「著作権法」とを比較し、本改正のポイント及びそれによる重大な影響を以下の通り整理する。

一、客体制度:新しい種類の著作物保護という現実的需要に応える

現行「著作権法」の第3条は著作物条項とも呼ばれ、法的に認められた著作物8種類とその他の著作物1種を列挙した。新しい著作物の種類が絶えず現れるにつれ、著作物条項が日々高まっている著作権保護の需要を満たせなくなり、実務上の運用における解釈と適用につき広く議論されてきた。2020年「著作権法」は著作物条項につき主に三つの重大な変化がある。

①著作物定義の条項が追加されている。「著作権法実施条例」の第2条の著作物の成立要件の規定が「著作権法」に盛り込まれ、著作物とは文学、芸術と科学分野における独創性を有し、且つ有形的に再製できる知的成果であると明確に規定されている。

②現行「著作権法」は映画の著作物とその類似著作物につき創作方法を強調している。実務上映画の著作物の撮影と異なる方法で創作されるネットゲームの画像、ショートビデオなど新しい種類の視聴覚作品の保護需要に応じ、本改正は映画の著作物と類似著作物の表現を視聴覚作品として統一している。

③その他の著作物につきましては法律または行政法規に規定されたものである制限を削除し、新しい種類の著作物の保護に法的根拠を提供し、裁判官に法律適用及び解釈の余地を残す。

また、本改正は著作権法による保護に適しない対象をより精確に定義している。ご存知の通り、著作権法が単なる事実情報を保護しないが、単なる事実情報を素材または背景に議論したり、分析したりし、深く掘り下げた報道になると、新聞類の著作物として著作権法の保護対象となり得る。本改正は著作権法に保護されない「時事新聞」を「単なる事実情報」と修正している。加えて、著作権帰属の章の職務著作物の部分に新聞職務著作物を追加し、現行の著作権法の規定はより精確になっている。

二、権利内容:伝播技術による著作物の利用形態の変化に応える

著作権の権利内容が著作権法の核心である。現行「著作権法」の第10条は4つの人身権利と12個の財産権利を列挙している。12個の著作権財産権利が著作物の使用方式によって区分されているが、伝播技術の発展を受けて著作物の利用形態がさらに多様化しており、伝播方式によって、現行の規定にカバーされなくなることがある。本改正は技術発展に伴う著作権法の課題に応えている。注目すべき変化が三つある。

①複製権につき、デジタル化方式による重複と再現は複製権に含めている。

②貸与権につき、視聴覚作品とコンピュータソフトウェアの権利者がオリジナル作品と複製物両方において貸与権を有す。

③放送権と情報ネット配信権につき、2020年「著作権法」は放送権の定義を改正した。無線方式による公開放送または伝播の規定が廃止され、インターネットライブ配信が放送権の効力範囲に含まれ、長い間放送権と情報ネット配信権がインターネットのライブ配信の行為に及ばないという現実的問題を解決した。

本改正により、放送権と情報ネット配信権の効力範囲がさらに明確になり、両者の相違は交互式配信行為であるかのみである。

今回の情報ネット配信権の改正にも重要な変化があり、情報ネット配信行為が著作物を提供する行為であるとは求めず、定義から著作物という文言を削除することにより、情報ネット配信権は著作物の提供行為に限らず、リンク先等のサービス提供も含めるようになった。

三、主体制度:権利帰属の規則がさらに整備されている

著作権の帰属制度が著作権法のもう一つの基本問題である。ある知的成果が著作物と判断されたら、次に著作権が誰に帰属するかを確定することになる。明確な権利帰属は著作権の許諾、譲渡及び利益分配の基礎である。本改正により著作権の主体制度がさらに整備され、明確化されている。主な変化は以下に示す通り五つある。

①著作者の推定規則と著作権登録制度を合併し、単独の第12条とする。著作物の推定規則とは反証がない場合、著作物に署名した自然人と法人が著作者と推定されることを言う。この規定は実務上証拠規則として多く適用されている。著作権登録も実務上著作権の享有の初歩的な証拠として扱われている。これらの事情を考慮し両者を合併したと執筆者が推測する。

②共同著作物につき次の内容が追加されている。共同著作者は共同著作物の利用につき合意できない場合、譲渡、専有の許諾利用及び質権の設定以外の方式で権利を行使できる。

③二次的著作物と編集著作物の規定が調整されている。現行「著作権法」に二次的著作物と編集著作物の使用規則を追加し、単独の第16条としている。それとともに、現行法の第35条、第37条と第40条の対応する規定が削除されている。

④視聴覚著作物帰属の規則が整備されている。映画の著作物及びその類似著作物の場合は、相変わらず現行法の視聴覚著作物関連の特殊規則が適用され、著作権は製作者(プロデューサー)が有するものとする。映画の著作物及びその類似の著作物を除く視聴覚著作物の場合は、著作権の帰属は当事者間の約定を優先する。約定がなければ、権利が製作者に帰属するという規則が適用される。また、脚本や音楽などの著作物の伝播と利用を促進するために、単独で使用可能な著作物の権利行使規則が追加されている。

⑤前述の客体制度の時事新聞関連の改正にあわせて、特殊な職務著作物には新聞職務著作物が追加されている。

四、権利制限制度:著作物の伝播と利用を促進する

著作権の立法趣旨は、著作物の保護により知識の創造と伝播を促進することである。保護と制限により完備した権利制度体系をなしている。わが国の著作権法の中の権利制限制度は主に合理的使用と法定許諾制度を指している。現行「著作権法」の第22条に規定された合理的使用に関する制度は完全とした閉鎖的列挙の立法方式であり、合理的使用に係わる総括的な規定もなければ、具体的なケースに適用するキャッチオール条項もない。このような立法方式は柔軟性に欠けているため、実務上広く議論されてきた。本改正は合理的使用につき重大な変化が四つある。

①現行法の第22条の第1項を整備し、合理的使用の成立要件を以下の通り明確化した、(1)著作者の氏名、名称または著作物の名称を明示すること、(2)著作物の正常な使用に影響を及ぼさないこと、(3)著作権者の合法的権益を不合理的に損害しないこと。

②法律や行政法規が規定するその他のケースを追加し、ハーフオープンの立法方式を採用することにより、完全とした閉鎖的な列挙立法で生まれた不完全の問題を解決している。

③無料の実演の部分に営利を目的としない限定条件を追加している。無料の実演の特徴は、公衆に料金請求もせず、実演者にも報酬を支払わない。本改正の目的は無料の実演の名義での実質的な営利活動(広告費用を受け取るなど)を防ぐことである。本改正が合理的使用の制度の立法目的に適合している。

④読字障碍者への配慮から、点字の方式に限らず、読字障碍者の感知可能なバリアフリーの方式による著作物提供まで合理的使用方式を拡張している。

五、隣接権制度:次第に明瞭になってきたものの、困惑も出ている

隣接権は著作物を伝播する人の権利の総称であり、理論研究の中で広く使われている。本改正で「著作権に係わる権利」として文言を統一している(文章の便宜から以下に「隣接権」と称する)。わが国の隣接権制度は出版者権、実演者権、録音録画製作者権と放送事業者権を四つ含めている。本改正の主な変化は以下に示す。

①実演者権の権利内容に「貸与権」を追加し、隣接権制度体系をさらに整備している。それとともに、職務実演の規定を追加し、職務実演の権利帰属を明確化する。

②現行「著作権法」の第44条の放送事業者の録音製品放送の法定許諾を削除し、第45条として「録音製品を有線または無線で公衆に伝播し、または音声を伝送する技術装置で公衆に公開伝播する場合、録音製作者に報酬を支払うべきである」と新設した。近年来、音声読み物の侵害行為がよく発生し、録音製作者の利益をよりよく保護するように2020年「著作権法」の改正を実施し、現実的需要にタイムリーに応えている。

③放送事業者権は本改正でもっとも多く議論された条項の一つである。本改正の主な変化は、リピート再生による著作権問題を解決するために、放送事業者に情報ネット配信権を与えている。にもかかわらず、リピート再生が放送、情報ネット配信またはその他の権利下のものかが明確にされていない中、この改正により問題がさらに複雑になってしまう。それに、本改正においては放送事業者権の保護客体を明確にしなかった。実務上の認識のずれを起こすおそれがあると執筆者が考えている。放送事業者権の保護客体を明確にしないと、実務上「信号」と「番組」との区分が十分に重要視されない。それで放送事業の番組を使う主体が信号許可を得ると信号が送信する番組の使用許諾をも同時に得ると思ってしまう。このような認識は許諾の混乱と侵害紛争の発生を招いてしまい、実務上争議が存在し続ける。

六、法律責任:著作権侵害の罰則強化

本改正のもう一つの重大変化は、著作権侵害による損害賠償責任である。現行の「著作権法」と比べれば、主に以下の三つの重大変化がある。

①損害賠償金額の計算式につき、本改正は権利者の実際損失と侵害者の違法所得を第一順位に並列している。これから権利者の実際損失と侵害者の違法所得の二種の計算式の適用に優先順位がなくなり、実務上の状況により適合するようになる。権利者の実際損失と侵害者の違法所得はともに計算しがたい場合、著作権使用許可料を参照に計算してもよい。

②著作権侵害の取締りを強化し、1~5倍の懲罰的損害賠償制度を導入している。本改正の趣旨は著作権侵害行為への処罰の強化であり、「民法典」の知的財産権懲罰的損害賠償規定の徹底でもある。また、法定損害賠償金額の変化もあり、上限は500万人民元とし、同時に下限は500元人民元に設定している。

③人民法院が著作権紛争案件の審理において、当事者の要求に応じ侵害の複製品や道具、材料などを補償せずに廃棄するのを命じることが可能となっている。著作権侵害行為に与える打撃はさらに徹底している。

七、その他の改正

前述の重大改正のほかに、その他の改正や細部の変化からわが国の著作権法立法の進歩がうかがえる。例えば、著作権管理団体による使用料公示制度の徹底、、技術措置と権利管理情報関連の規定の整備等は注目、議論されつつある。

著作権法の本改正は十年にわたり、著作権制度の各方面に及び、社会各方面の声と有識者の意見を2020年「著作権法」に反映し、集団的知恵の結晶である。2020年「著作権法」が実務運用において輝き、最大の価値を発揮すると期待されている。著作権は技術の産物として技術の迅速的発展にしたがい、絶えず歩み続けていく。本分野の専門家、学者及び実務者が引き続き努力していかなければならない。

以上

[1]桂紅霞パートナー弁護士が金杜法律事務所の争議解決部と知的財産権部に勤めている。20年近くの実務経験を持ち、主な専門分野はビジネス訴訟、知的財産権訴訟と知的財産権取引である。劉思岩と趙影会が桂紅霞弁護士のチームメンバーであり、紛争解決と知的財産権関連の業務に携わっている。全国人民代表大会が「著作権法改正案」につき二度と社会各方面に公開的に意見を募集するにあたり、桂紅霞弁護士チームが自らの経験に基づき、二度と改正提案を作成し提出した。桂紅霞弁護士チームが代理した「明河社出版有限公司、完美世界(北京)ソフトウェア有限公司と北京火谷ネット科技株式有限公司、崑崙楽享ネット技術有限公司、崑崙万維科技株式有限公司の改作利用権及び不正競争紛争案」が最高人民法院による2019年中国法院十大知的財産権案件に入選された。