筆者:劉迎春 知的財産権 金杜法律事務所
中国専利法は、意匠専利を保護し、登録意匠に関わる無効審判、行政訴訟(注:審決取消訴訟)及び民事侵害訴訟において、いずれも、登録意匠と無効審判の証拠又はイ号製品の対比を行う必要がある。対比において、常に「一般消費者」という用語が出てくる。「一般消費者」は、その知識レベル及び認知力に基づいて評価を行い、対比の結果を出す。
所謂「一般消費者」は、日常生活における実際の消費者ではない。生産・生活における実際の消費者は、育った環境、教育レベルなどに応じて、意匠対比について異なる判断を行い、主観的な要素が大きな影響を与える。「一般消費者」は、擬制される主体であり、その知識レベル及び認知力が特定可能であり、対比における主観的な判断をできるだけ低減し、客観的に公平、公正な結果を得ることができる。これで、対比における「一般消費者」の重要性が分かる。
実務では、特に大量の典型的な事例を踏まえて、一般消費者への認定に、以下の二点を留意しなければならない。
まず、一般消費者が何の種別の物品の一般消費者に該当するかを確定することである。異なる種別の物品は、その自体の特徴により、一般消費者のグループが異なる。「一般消費者」を確定することは、「異なる種別の物品」を確定することを前提とする。「異なる種別の物品」を如何にして解釈、定義するかが肝心である。細かく具体的な物品の分類があれば、上位に概括される分類ではなく、この具体的な物品の分類に準ずる。物品種別の確定により、一般消費者の認知対象及び範囲が限定される。数多くの登録意匠に関する無効審判、行政訴訟及び民事侵害事件において、物品を異なった種別に認定したことによって、「一般消費者」の認定が異なることになり、そのため、全く逆な対比結論及び事件の結果になった。
次に、物品種別及び設計空間に基づいて、一般消費者の知識レベル及び認知力を確定することである。ある種別の意匠に係る物品の一般消費者として、登録意匠の出願日より前の同一又は類似種別の物品の意匠及びそのありふれた手法について常識程度の認識を持ち、意匠に係る物品の形状、模様及び色彩の相違について一定の識別力を有するが、設計空間の大きさにより、一般消費者はいくつかの要素の変化に対する注意程度が異なり、設計空間が大きい場合、一般消費者は、通常、これらの要素の局部の軽微な改変まで注意することができず、設計空間が小さい場合、一般消費者は、これらの要素の細部の変化にもっと注意を払うことになる。設計空間の大きさの確定により、一般消費者の観察レベル及び観察能力が限定される。物品種別を誤って認定し、又は設計空間の大きさを無視して一般消費者の知識レベル及び認知力を認定すると、異なる対比結果になってしまう。
執筆者が代理した登録意匠に関する民事侵害事件において、訴えられた侵害者が当時の専利復審委員会(今、国家知識産権局専利局復審及び無効審理部になり、以下「復審委員会」という)に登録意匠の無効審判請求を提出し、その中、証拠1は、意匠権者の先行意匠権である。本件登録意匠の意匠公報に、意匠に係る物品の名称がオートバイクであり、物品の用途は輸送であると記載されている。復審委員会は、無効審判決定書において、一般消費者がオートバイク物品の一般消費者であると認定した上、本件登録意匠と証拠1に示すオートバイク全体の造形及び外形輪郭が近く、両者の差異は物品意匠の全体の視覚効果に対して顕著な影響を与えないため、本件登録意匠は、証拠1に対して顕著な相違を有せず、無効を宣告した。
無効審判決定書を検討した後、我々は、復審委員会の一般消費者に対する認定に誤りがあり、誤った一般消費者の認定によって誤った結論になったと考える。我々は、意匠権者を代理して行政訴訟を提起し、二年後、漸く第一審の判決を受領した。第一審裁判所が「オートバイクの一般消費者」を、「二輪スポーツバイクの一般消費者」に変更し、これで無効審判決定を覆した。
第一審裁判所は、以下のように認定した。一般消費者の知識レベル及び認知力を確定する際、本件登録意匠に係る物品はオートバイクであり、登録公報に物品の用途が輸送であることのみ明記されているが、その図面から二輪スポーツバイクであると確定でき、一方、二輪スポーツバイクの一般消費者は、出願日前に出願された意匠、市販の二輪スポーツバイク、コマーシャルに掲載された情報、及び関連刊行物に記載された先行意匠などの今までの状況を熟知し、且つ、そのありふれた手法に認識を持ちべきである。特に、他の種別のオートバイクと比べて、二輪スポーツバイクは価格が高く、快適性ではなく機能性を重視し、対象の範囲が割と狭いため、二輪スポーツバイクの一般消費者は、通常、当該種別のオートバイクの関連情報、例えば、ブランド、品質、性能及び各種の技術配置などについてより深い了解を有する。したがって、先行意匠の設計空間などの状況を合わせて、二輪スポーツバイクの一般消費者は、係争種別のオートバイクの細部設計、例えば、シールド、車体カウルなどの相違について高い識別力を有し、これらの部位の変化により全体の視覚効果に顕著な影響を与える。したがって、本件登録意匠は、証拠1と比べて顕著な相違を有する。これで、復審委員会の無効審判決定を取り下げた。
本事件について、無効審判請求人及び復審委員会は同時に控訴した。それに、復審委員会は、設計空間及び一般消費者の認定問題を証明するために証拠3~証拠37を提出し、その中、証拠3~36は、設計空間を証明するための先行意匠であり、証拠37は、(2019)最高法知行終159号行政判決書である。復審委員会は、本事件における証拠1が意匠権者の先行意匠であり、(2019)最高法知行終159号行政判決書(以下、159号行政判決書という)の観点を参考して判断主体である「一般消費者」を認定すべきであると主張した。
しかし、159号行政判決書における事件は、上記オートバイク事件に適用できないことに、復審委員会が認識できなかった。159号行政判決書は、配線接続箱の意匠に係り、配線接続箱自体の構成が簡単である。意匠権者のW会社は、同一ブランドの前後複数世代の意匠に継続性を有するため、前後2つの世代の意匠間における軽微な変更は一般消費者に容易に注意されると主張した。この主張について、裁判所は、159号行政判決書において、一般消費者が専門家やエキスパートではなく、関連状況を了解するが、同一ブランドの前後複数世代の意匠間の軽微な改変や異なる意匠間の微小な変化まで注意できないと認定し、W会社の主張を支持しなかった。
159号行政判決書に関わる事件において、W会社の抗弁自体に問題がある。具体的に、一般消費者が、あるブランドの特定の形態ではなく(あるブランドの複数世代の意匠は当該分野の現状意匠の発展状態を代表する場合を除く。これは、発展状態を代表する場合、現状の設計空間が小さいことを表し、これらの細部や微小な変化まで注意できるからである)、ある種別の物品の常規設計及び変化を了解するものである。我々が代理した上記オートバイク事件において、登録意匠と証拠1の意匠は、同一ブランドの前後複数世代の意匠間の軽微な改変のみを代表するものではない。無効審判請求人が無効審判を提出した際の複数の証拠及び復審委員会がその後設計空間を証明するための数多くの証拠3~36において、意匠権者の意匠が大きな割合を占める。言い換えれば、意匠権者は、スポーツ型オートバイク分野の意匠のトレンド変化を提供し、当該分野の現段階の設計トレンドを代表し、一般消費者が了解している内容に該当し、更に、これらの証拠は正に、当該種別の物品及び設計空間の状況から確定する一般消費者の知識レベル及び認知力によって、一般消費者がそれらの細部の変化を注意すべきであることを証明する。
上記事件以外、一般消費者への異なる認定によって、事件の判決結果が異なることになる代表的な事件は、最高裁判所の知的財産審判指導案例(ある会社と国家知識産権局専利復審委員会との意匠権無効審判行政紛争事件)である。当該行政事件は、第一審、第二審及び再審を経った。
復審委員会が下した決定及び元第一審、第二審の判決は、いずれも、「自動車」を物品の種別として、判断主体である「一般消費者」を、自動車この種別の物品に対して常識程度の認識を持っている人と認定し、且つこれを元に、一般消費者の知識レベル及び認知力を認定した。対比において、登録意匠と証拠1の意匠との差異点を認定したが、これらの差異が軽微な改変に該当することを理由で、自動車意匠の「全体」から排除し、実際に、両意匠の全体の外形輪郭を中心に対比を行い、且つ、自動車の全体の外形輪郭は自動車物品の一般消費者にとって視覚的な影響が最も顕著であると認定したため、登録意匠が証拠1と類似し、無効と認定した。
当該会社が再審を申し立てる理由は、一般消費者への認定に誤りがあることである。具体的に、一般消費者は、「自動車の一般消費者」ではなく、SUV自動車に常識程度の認識を持っている一般消費者であり、SUV自動車の一般消費者から登録意匠と証拠の意匠について対比を行うと、多くの細部の特徴も視覚の衝撃を引き起こすため、無視されるべきではない。
最高裁は再審を行い、もっと上位な自動車ではなく、係争種別の自動車を物品の種別とすべきであると認定し、これで前の判決結果を覆した。自動車物品の消費者であれば、自動車に対して常識程度の認識を持ち、2BOX、3BOXタイプなどの全体の視覚効果の要素に対して了解するが、自動車の他の細部の設計、例えば各側面を「微小な差異」に該当すると認定することになる。こうすると、自動車の全体の輪郭が近い場合、両意匠が類似又は実質的に同一であると認定されることになる。一方、具体的な種別の自動車又はSUV自動車の一般消費者であれば、当該種別の自動車に対して常識程度の認識を持ち、具体的な設計についてもっと多くの了解を有する。最高裁は、当該事件において、自動車の各側部などの部位の設計変化がSUV自動車の一般消費者のより多くの注意を引くと認定し、そのため、登録意匠が、証拠1に示す自動車の意匠と比べて、不規則的な形状のライト、サイドウィンドウ、リアバンパーなどの装飾的な部位にいずれも相違が存在し、両者が類似しないと認定し、そのため、第一審、第二審の行政判決及び復審委員会の無効審判決定を取り下げた。この事件でも、一般消費者への異なる認定は、全く異なる結論になった。
上述を纏め、登録意匠の無効審判、行政訴訟及び民事侵害訴訟の手続きで行われる対比において、一般消費者への認定は極めて重要であり、物品種別及び設計空間を総合的に考慮して一般消費者の知識レベル及び認知力を確定すべきである。上位分類ではなく、細かく具体的な物品の分類から物品の種別を確定し、一般消費者の認知対象及び範囲を限定する。さらに、設計空間の大きさを確定することによって、一般消費者の観察レベル及び観察能力を限定し、一般消費者のいくつかの要素変化の注意程度を確定し、これで、細部の設計を考慮するか否かを確定する。妥当、且つ正確に一般消費者を認定し、その知識レベル及び認知力を確定してこそ、公平、公正の対比結果を得られる。