著者:邰紅 郭煜 呉斌(知的財産)[1]
前書き
2010年乃至2019年の化合物特許に対する無効審判審査及び無効審判行政訴訟案件について統計と分析を行った後、最近、2020年乃至2021年の化合物特許に対する無効審判審査及び無効審判行政訴訟案件について、更に統計と分析を行いました。分析と比較によって、この2年間近く、化合物特許に対する無効審判審査について、以下の変化と動向が窺えます。
(1)化合物特許に対する無効審判の請求件数は年間10件ぐらいであり、
高水準で推移しています。
(2)化合物特許が有効に維持させる比率は遥かに高くなります。
(3)明細書開示要件(法26.3)及び/又はサポート要件(法26.4)の理由だけでは、化合物特許を無効するのが難しいです。
(4)化合物の進歩性に対する評価は、化合物構造の非自明性を重視するようになり、従来のように化合物構造が近いかどうかを硬直に比較するという簡単なやり方が採用されなくなります。
(5)追加実験データは限られた条件下、認められる可能性があります。
2020年10月17日、第十三次全国人民代表大会常務委員会第22回会議では、「中華人民共和国専利法の改正に関する決定」が可決されました。当該改正後の専利法の第76条には、「医薬品のパテントリンケージ制度」が新設されました。2021年7月4日、国家薬品監督管理局と国家知識産権局は、共同で「医薬品特許紛争の早期解決メカニズムの実施弁法(試行)」を発表しました。2021年7月5日、最高人民法院は『登録申請医薬品に関連する特許紛争民事事件の審理における法律適用の若干問題に関する規定』(意見募集稿)を発表しました。2021年7月5日、国家知識産権局は、「医薬品特許紛争早期解決メカニズム行政裁決弁法」を発表しました。
新設の医薬品のパテントリンケージ制度により、医薬品の承認審査の過程中では、承認審査を申請する医薬品は、他社の特許権を侵害する可能性がある場合、関連当事者は人民法院に訴訟提出し、若しくは国務院専利行政部門に行政裁決を申請し、承認審査を申請する医薬品の関連技術案が他社の医薬品特許の保護範囲に入るか否かについて判決若しくは裁決を行うよう申請することができます。当該制度において、承認審査を申請する医薬品に関わる化合物特許、つまり、承認審査を申請する医薬品の有効成分に関する化合物特許は特に重要です。
このような背景では、化合物の安定性について改めて研究し、かつ前回の研究報告でまとめた統計データ、審査提案などと比較して、化合物特許の無効審判審査に関する新たな変化と新たな動向を精確に把握するよう努めたいと思います。
第一部分 中国化合物特許の無効審判に対する統計と分析
この部分では、まず中国化合物特許の無効審判審査と無効審判係争行政訴訟について検索と分析統計を行います。
一、 無効審判案件の検索と分析方法
前回の報告と同じように、国家知識産権局専利局復審及び無効審理部のホームページの「口頭審理公告及び決定の検索」システムにおいて、医薬関連分野の国際分類番号(例えば、C07D、A61K、A61P、C07C、C07F、C07K)を検索キーワードとして、2020年1月1日乃至2021年9月30日の2年間近くに亘る無効審判審決について検索を行い、かつ検索で得られた無効審判審決で更にクレーム主題が医薬分野の化合物に関わる関連無効審判審決を縮めることで、16件の無効審判審決を選出しました。
これらに基づいて、これらの中の無効審判請求の理由、双方当事者の挙証情況、無効審判手続におけるクレーム修正、合議体の評価意見及び最後の無効審判審決結論などを含めて、16件の無効審判審決の本文について分析を行いました。
二、 無効審判案件に対する全体的統計分析
1、無効審判審決の年度分布情況
図1によると、2020年乃至2021年9月の化合物特許の無効審判審決件数は、相変わらず比較的に高いレベルに維持することが分かります。全体的なデータからみれば、2017年以降、化合物特許の無効審判審決件数は比較的に高いレベルで維持され、1年間当たり約10件程度となります。当該データにより、後発医薬品企業が市販する医薬品のコア化合物特許に対する挑戦は、過去5年間で激化しています。
2、無効審判理由の分布情況
図2のデータにより、2010年乃至2019年のデータと似て、2020年乃至2021年9月に亘る化合物主題の特許無効審判案件では、進歩性要件は依然として主な無効審判請求の理由となります。2010年乃至2019年の無効審判理由に比べて、最も顕著な区別は、明細書開示要件とサポート要件の比率が増加し、一方、修正が範囲を超えた問題と他の条項による問題の比率が下がるということです。
2010年乃至2019年のデータと似て、2020年乃至2021年9月に亘る化合物主題の特許無効審判案件では、主な無効審判請求理由は、進歩性要件、明細書開示要件及びサポート要件です。統計分析を行った合計51件の無効審判審決では、進歩性要件の無効審判請求理由に関わる案件は、35件に達し、70%近くを占めています。また、明細書開示要件に関する案件も28件あり、55%を占め、サポート要件の無効審判請求理由に関わる案件は19件に達成し、37%近く占めています。
3、無効審判結論の分布情況
2010年乃至2019年のデータに比べて、2020年乃至2021年に亘る無効審判結論の変化は一番顕著です。2020年乃至2021年の無効審判案件では、全部で8件の化合物特許が有効に宣告され、8件の化合物特許が部分に無効宣告され、無効宣告された化合物特許はありません。部分に無効宣告された無効審判審決の内容を真剣に検討した結果、これらの案件はいずれか特許権者がクレームを修正した上、特許権が有効に維持されることがわかりました。言い換えれば、合計16件の化合物特許について、国家知識産権局は、主動的に特許権を無効宣告するものがなく、ひいては主動的にクレームを無効宣告することもありません。よって、特許権者の角度からみれば、2020年乃至2021年にわたって、無効審判に関わる全ての化合物特許は最終的に有効に維持されると言えます。
三、中国裁判所の関連判決
1、データ統計
関連データベースにおいて、医薬関連分野の国際分類番号(例えば、C07D、A61K、A61P、C07C、C07F、C07)をキーワードとして、2020年乃至2021年に亘る無効審判行政訴訟案件について検索し、かつ検索で得られた結果から更にクレーム主題が医薬分野化合物に関わる判決を縮めて、訴訟取り下げの案件を排除した上、5件の判決が検索しました。
5件の判決は全て北京知識産権法院が下した一審判決であり、かつそれらの判決文は全て、判決を変更せず国家知識産権局が出した無効審判審決を維持したのです。
上記の5件判決を真剣に読んだ上、すべての案件の係争焦点は、主に進歩性の問題であり、かつその中の4件が、追加実験データが認められるかどうかという問題に関わります。
第二部分 明細書開示要件とサポート要件の無効審判請求理由について
上記の図2が示される統計のように、無効審判請求人が主張した無効審判請求理由の中では、進歩性要件以外に、最もよく見られる無効審判請求理由は「明細書の公開が不充分である」ことと「クレームが明細書にサポートされない」ことです。2020年乃至2021年では、5件の特許無効審判請求案件が進歩性要件と関わることが一切ありません[2]。
Pfizer社のトファシチニブ無効審判審決が下した後、明細書開示要件に関わる無効審判請求理由では、従来ではよく注目されている「明細書には関連技術効果のデータが公開されている否か」ことの他、明細書には、関連化合物の製造方法及び/又は証明できるデータが記載されているかどうかということも、注目されるようになりました。
例えば、イブルチニブ無効審判案件(第44853号及び第44855号審決)では、無効審判請求理由は、明細書開示要件とサポート要件だけに関わります。無効審判請求人が提出した証拠1は、トファシチニブ無効審判審決であり、主な無効審判請求理由は、係争特許が上記化合物の製造方法と証明できるデータを公開していなく、特に最終化合物がキラル炭素に関わる場合、明細書には当該キラル化合物の製造及び証明できるデータが公開されていないということです。特許権者は答弁では10余個の反証を提出して、関連する化合物の合成ルート、反応メカニズム及び反応原料の由来を説明しました。合議体は、特許権者の答弁意見を受け入れ、特許権を有効に維持しました。
また、マシテンタン無効審判案件(第48183号審決)では、マシテンタンが明細書のチャートにまとめた大量なコンパウドの中の一つだけであると公開されたため、無効審判請求人は、明細書にはマシテンタン化合物の製造方法と証明できるデータが充分に公開されていないと主張しました。特許権者は答弁では特許明細書に記載されている内容に基づき、マシテンタン化合物の合成ルートを詳細に説明し、そして明細書に記載されている構造が極めて類似する3つの化合物に基づいて、マシテンタン化合物も類似の効果があると答弁しました。合議体は結局、特許権者の答弁意見を受け入れ、特許権を有効に維持しました。
よって、無効審判審決の結果からみて、明細書開示要件若しくはサポート要件の無効審判理由だけでは、化合物特許、特に具体的な化合物(picture claim)特許を無効宣告するのが難しいです。
第三部分 非自明性について
化合物進歩性の判断について、一般的には2つの問題を判断する必要があります。1つは、化合物構造の自明性であり、もう1つは化合物の薬学的な効果の自明性です。
「第一三共オルメサルタン無効審判案件」と「チカグレロル化合物無効審判案件」がでるまでは、化合物特許の進歩性を審査した時、国家知識産権局は、化合物の薬学的な効果を多く強調しました。ひいては、幾つかの特許出願の審査及び特許無効審判の審査では、「化合物親核における基又は環が互いに取替可能であり、本発明の化合物が従来技術に比べて予想外の効果がなければ、進歩性がない」という判断方式まで出てきました。その時点では、化合物の進歩性を判断した時、化合物自体の構造の非自明性が比較的に無視されました。
「第一三共オルメサルタン無効審判案件」は、上記の認定方法を是正して、「マーカッシュクレームの進歩性判断は、進歩性判断の基本的方法、つまり、特許審査基準で規定する“3ステップ法”を遵守しなければなりません。予想外の技術効果は進歩性判断の補助的要素であり、しかも、バックステッピングの判断方法として、特殊性があり、一般適合性がありません。よって、“3ステップ法”の審査と判断により非自明性であるかどうかが確かめられない場合に限って、予想外の技術効果により特許出願が進歩性の有無を認定することができ、通常、“3ステップ法”をスキップし、直接に予想外の技術効果を有するか否かを適用して特許出願が進歩性を有するか否かを判断することが妥当ではありません」と指摘されました。
しかしながら、化合物特許の進歩性を判断する時に化合物自体の構造の非自明性を考慮しても、一部の審査官としては、化合物の親核(一般的には環状構造部分であると考えられる)だけが、化合物の薬学性質、効果への影響が大きく、一方、環における置換基が化合物の薬学性質、効果に対して影響が比較的に小さいちいう観点を持ち、更に化合物の親核における置換基は自由に置き換えることができると考えられています。
「チカグレロル化合物無効審判案件」の二審判決は、上記の観点を是正しました。当該判決は、まず進歩性の判断では、従来技術の全体的教導に基づいて、関連技術特徴を変更する動機付けがあるか否かを判断すべきであると明確化しました。次に、「マーカッシュクレームは、変更できない骨格部分と変更できるマーカッシュ要素を含めて……骨格部分における一部を変更した場合、環状構造のような比較的に大きい部分、或いはカルボニル基のような比較的に小さい部分を変更した場合、同様の薬物活性が生じるか否か予期できず、更に証拠1で得られた技術効果を実現できるか否かを予期できません」と明確化しました。言い換えれば、当該判決文は、従来技術の内容を全体的に考慮した上、化合物における環構造部分だけが化合物の薬学活性に影響を与えるだけでなく、カルボニル基のような小さい基でも化合物の薬学活性に影響を与える可能性があることを明確にしました。
「チカグレロル化合物無効審判案件」の二審判決が下した後、その後の幾つかの化合物無効審判案件(例えば、リバーロキサバン無効審判案件、アログリプチン無効審判案件、マシテンタン無効審判案件など)の審査では、国家知識産権局は、引用文献の全体的教導に基づいて、引用文献における化合物の構造活性相関関係を判断することを益々重視してきており、更に上記の構造活性相関関係により、係争発明の化合物の構造の自明性を判断するようになりました。
1、リバーロキサバン無効審判案件(第45997号審決)
当該無効審判案件では、リバーロキサバン化合物の構造式と、無効審判請求人が主張する最も近い従来技術(証拠3実施例9の化合物A)の構造式は、それぞれ以下のように示します。
研究により、証拠3は以下の一般式の因子Xa阻害剤を有し、
その中では、R1(即ち、ベンゼン環における置換基)について、証拠3の明細書とクレーム1は、R1が-C(=NH)-NH2(置換基があってよい)、5-メチル[1,2,4]オキサジアゾール若しくは5-オキソ[1,2,4]オキサジアゾールであると明確に限定します。
上記の内容から、証拠3は、アミジノ基(-C(=NH)-NH2)若しくは特定構造と特定接続方式のあるオキサジアゾールがフェニル基と接続する構造を有する化合物だけが、因子Xaを阻害することができると教導したことが分かります。構造式が示すように、[1,2,4]オキサジアゾールの中でも実際にアミジノ基構造を含みます。よって、証拠3は実際には(アミジノ基-フェニル基)構造を有する化合物が因子Xa阻害剤とすることができることを教導しています。これは、証拠3の発明名称「ベンジルアミン誘導体」からも裏付けられます。
上記の事実に基づき、合議体は、「請求人が口頭審理時に提供した公知常識証拠1-2には、医薬化学分野では小分子置換基の置換が慣用の技術手段であることが公開されています。しかしながら、上記構造における構造修飾は、同じような骨格構造を有する類似医薬化合物を対象とするものです。上記の分析に基づき、本特許の化合物は証拠3の実施例9の化合物との構造差異が比較的に大きく、しかも関連する証拠により、証拠3のベンジルアミン阻害剤について、当業者が選択する改善すべきサイトは、ベンジルアミンを他の基に置換することではなく、当該構造を保持する上、他の構造を改善することであると表明されました。」と認定しました。これにより、合議体はリバーロキサバン化合物の進歩性を認めました。
リバーロキサバン無効審判案件は、「チカグレロル化合物無効審判案件」の後、国家知識産権局は化合物特許の進歩性審査では、引用文献の全体的教示を審査して更に化合物構造自体の非自明性を判断する典型的な案件となります。本件の無効審判審決は、「チカグレロル化合物無効審判案件」の二審判決で確定した審査基準を参考して、合議体は証拠3の教示を全体的に考察した上、当業者が証拠3のベンジルアミン化合物について、ベンジルアミン、ホルムアミジン が因子Xa阻害活性を実現するための必要構造であることを知って、そして、改善すべきサイトが、ベンジルアミンを他の基に置換することでなく、当該構造を保持する上、他のサイトに対して改善を行うことを選択します。
当該案件の典型的な意義が考慮されて、リバーロキサバン無効審判案件は、「2020年度特許復審無効トップテン審判案件」に入選されました。これは、国家知識産権局がリバーロキサバン無効審判案件の審査基準を化合物進歩性判断の指導的基準とすることを望んでいると表しています。その後、国家知識産権局は、更に文章[3]を発表して、その審理基準を釈明して、更に「化合物の進歩性判断では、構造活性相関関係の分析は、発明が実際に解決しようとする技術課題を確定し、従来技術には対応する技術啓示があるかどうかを分析するための要旨である」と明確化しました。
2、アログリプチン無効審判案件(第48855号審決)
当該無効審判案件において、アログリプチン化合物の構造式と無効審判請求人が主張した最も近い従来技術(証拠2の実施例14における化合物)の構造式は、それぞれ以下の通り示します。
研究により、証拠2は、以下の一般式を有するDPP-IV阻害剤に関わります。
上記の一般式で示される化合物の構造に基づき、証拠2は、プリンジオン(purinedione)構造を有する化合物がDPP-IV阻害活性を有することを教示しています。よって、証拠2の教示により、「プリンジオンは固定構造であり、証拠2にはプリンジオンの構造が置換できるに関する啓示がなく、当業者は証拠2におけるプリンジオンを置換する動機付けがない」ということが分かります。これにより、合議体は、アログリプチン化合物の進歩性を認めました。
3、マシテンタン無効審判案件(第48183号審決)
当該無効審判案件において、マシテンタン化合物の構造式と無効審判請求人が主張した最も近い従来技術(証拠5における化合物7k)の構造式は、それぞれ以下の通り示します。
本件証拠により、「係争特許のマシテンタンのETA及びETB受容体に対するIC50の数値と、証拠5における化合物7k及びそのナトリウム塩の対応する数値とを比較して、両者の効果は基本的に同じであることが分かります。よって、証拠5に対して、本件特許が実際に解決しようとする技術課題は、ETA及びETB受容体に対して拮抗作用を有する構造が異なる別種の化合物を提供することである」と分かります。
本特許クレーム1が進歩性を有するかどうかを判断するため、重要なのは、当業者が無効審判請求人により挙げられた証拠6、7、9、また公知常識を証明するための証拠16、22及び23に基づき、証拠5における化合物のカルボ―スルホンアミド基(即ち、“-C-SO2-NH-”)をアゾ―スルホンアミド基(即ち、“-NH-SO2-NH-”)に変更する動機があるかにあります。
証拠5の内容を検討した上、合議体は、「証拠6と証拠7に開示されたのは、何れもピリミジン環の4- positionのスルホンアミド部分がカルボ―スルホンアミド基である構造です。証拠6及び/又は証拠7の教導に基付き、当業者は証拠5におけるカルボ―スルホンアミド基(即ち、“-C-SO2-NH-”)をアゾ―スルホンアミド基(即ち、“-NH-SO2-NH-”)に変更する啓示を得ることができません」と認定しています。よって、合議体は、マシテンタン化合物の進歩性を認めました。
4、カルフィルゾミブ無効審判案件(第51835号審決)
当該無効審判案件では、カルフィルゾミブ化合物の構造式と無効審判請求人が主張した最も近い従来技術(証拠1の化合物16)の構造式は、それぞれ以下の通り示します。
証拠1の内容を検討した上、合議体は「証拠1がアセチル基より長い構造を有する他の化合物を提供せず、更に末端構造の延長による化合物活性への影響について何ら研究を行っていないため、当業者は更に末端構造の延長による化合物活性への影響を予期することができません。証拠1は明確な方向を示す規律的な指導を与えていません。よって、化合物16と18の比較に基づき、当業者はアセチル基を更に修飾してその構造を延長する動機がなく、証拠1は、このような技術啓示を与えていない」と認定しました。よって、合議体はカルフィルゾミブ化合物の進歩性を認めました。
「チカグレロル化合物無効審判案件」の二審判決が下した後、業界で大きな反響を呼び、医薬分野の研究開発・イノベーション企業より高い評価を得ています。リバーロキサバン無効審判などの一連案件の審決により、国家知識産権局は、すでに「チカグレロル化合物無効審判案件」の二審判決で確定した化合物特許進歩性の判断方法を受け入れ、従来のように化合物構造が近いかどうかを単に対比するとのやり方を放棄し、化合物の進歩性判断においては、構造活性相関関係の分析は、発明が実際に解決しようとする技術課題を確定し、従来技術には対応する技術啓示があるかどうかを分析するときの重要な内容であると明確化し、よって、化合物の構造が近いかどうかを機械的に対比することにより生じる主観的臆断を避けることができ、これにより得られた結論もより客観的になります。
上記の幾つかの審決により、国家知識産権局は化合物の無効審判案件を審理するとき、化合物構造の自明性への判断を重視するようになると分かります。しかしながら、構造が自明性を有しても、当該化合物が進歩性を有しないことを意味せず、更に係争特許の化合物が従来技術に比べて予想外の技術効果を取得するかどうか、つまり、薬学的な効果において自明性を有するかどうかを判断する必要があります。このような判断方式は、従来の化合物進歩性への審査ではずっと重視されて、今も依然として使っています。今回検索した案件の中では、多数の件は、化合物の薬学効果の非自明性に基づいて、有効に維持されました。例として、パルボシクリブ無効審判案件(第44182号審決)、重水素化プナブリン無効審判案件(第45381号審決)、テノホビルアラフェナミド無効審判一審判決((2020)京73行初3498号)、ドナフェニブ無効審判案件(第50976号審決)、エピプラゾール無効審判案件(第51360号審決)が挙げられます。よって、化合物進歩性の反論は、化合物構造の非自明性を強調する以外に、化合物の薬学効果の非自明性も依然として重視されるべきです。
[1]The authors are all patent attorneys of Beijing King & Wood Mallesons Law Firm. Contact: Tina TAI,tinatai@cn.kwm.com,010- 58785132
[2]その中では、第44093号無効審判案件は、明確性要件だけの無効審判請求理由に関し、しかも特許権者はクレームを修正した後、無効審判請求人はそれを認めて、無効審判請求の理由がすでに克服したと主張しました。これは、クレームの修正を行うために、特許権者の方が自らストローマンstrawmanを通して、提出した無効審判請求であると推測します。
[3]《2020年度十大案件評析:“置換のオキサゾリジノン及びその血液凝固分野での応用” 発明特許権無効審判請求案件》,国家知識産権局専利局復審無効審理部,李婉婷,2021年月8日,https://www.cnipa.gov.cn/art/2021/7/8/art_2648_167398.html