一、事件の概要

 本事件は、接触分解分野において、主に重質原料の接触分解やガソリンの接触改質に使用される低温再生触媒循環方法の特許に関するものである。係争特許は、導入した後しばらくは商業的成功を収め、国家科学技術賞を受賞した。該特許の名称は「低温再生触媒循環方法及びその装置」であり、具体的に、流動接触分解プロセスであり、該プロセスは、ライザー反応器内で炭化水素原料が触媒と接触して反応し、反応物は分離器に流れ油ガスから触媒を分離し、分離した使用済み触媒はストリッピング区域でストリッピングし、再生器に入ってコークス燃焼して再生し、再生された触媒は、ライザー反応器に戻され、再利用されることを含む。請求項1には、「下部に流動媒体分配設備が設けられ、下流に触媒混合緩衝空間が設けられる」と限定され、明細書にも該構成要件が対応して記載されている。本事件の肝心な技術的争点は、「下流」に位置する「混合緩衝空間」に焦点が当てられている。
Continue Reading 無効戦略に基づいて特許権者が明細書の記載が不十分であることと特許が進歩性を具備しないことを二者択一にする

一、事件の概要

中国は、2001年より排ガス基準を導入してから、5段階(国5)を経てまもなく第6段階(国6)を適用するようになる。各段階で採用される排ガスの還元技術が全く同じではない。本事件に係る2つの係争特許は、正に排ガス浄化機能に用いられる計量ポンプユニットを特許請求し、かつ、国5基準適用の排ガス還元技術に関わっており、国6基準にこれらの技術が採用されていない。排ガス基準が全面的に国6時代に入ると、両特許が保護する国5基準に係る計量ポンプユニットが全て淘汰されることになる。そのため、本事件は、特許権者である原告にとって一定の時効性があり、全面的に国6時代に入る前に勝訴しないと、係争特許の技術がそのまま淘汰され、係争特許の価値が実質的にゼロになる。
Continue Reading 無効審判手続きで意図的に権利非侵害の抗弁に有利な構成要件の解釈を得る無効戦略の設計

第四部分   追加実験データについて

一、ここ2年間に追加実験データの審査基準

追加実験データの審査基準について、2020年から積極的な変化がありました。

2020年1月15日、中米双方が正式に締結した「中米経済・貿易協議」の第1.10条の医薬に関する知的財産権では、データ追加提出規則が言及され、かつ「中国は、医薬特許の出願人が特許審査手続、特許復審手続及び司法手続で、データの追加提出により公開充分及び進歩性の要求を含めて、特許可能性の関連要求を満たすのを認めるべきである」と言及されました。
Continue Reading 化合物特許に対する無効審判審査の変化と動向(II)

一、事件紹介
本事件は、深セン市滙頂科技股份有限公司(以下「滙頂公司」と称する)と上海思立微電子科技有限公司(以下「思立微公司」と称する)との指紋認証分野の一連の特許侵害紛争事件の中で、1つの重要な事件である。係争特許は、名称が「指紋認証に基づく端末及びそのスタンバイ状態におけるログイン方法、システム」であり、特許番号がZL201410204545.4である滙頂公司の発明特許である。滙頂公司は、思立微公司のGSL6277チップが該特許権を侵害すると訴えた。

Continue Reading 証拠の真実性から特許侵害対比の基礎である「データマニュアル」という「証拠」への反論

前書き
2010年乃至2019年の化合物特許に対する無効審判審査及び無効審判行政訴訟案件について統計と分析を行った後、最近、2020年乃至2021年の化合物特許に対する無効審判審査及び無効審判行政訴訟案件について、更に統計と分析を行いました。分析と比較によって、この2年間近く、化合物特許に対する無効審判審査について、以下の変化と動向が窺えます。
Continue Reading 化合物特許に対する無効審判審査の変化と動向(I)

事件の概要
四川金象賽瑞化工股フン有限公司と北京燁晶科技有限公司は、本件に係るメラミン生産システムおよび生産プロセスに関する特許の権利者である。権利者の代理人として、北京市金杜法律事務所は、2016年12月13日に、華魯恒昇社、寧波遠東社、寧波設計院社、および尹明大がその特許権を侵害していることとして、広州知識産権法院に対して訴訟を提起し、4被告に権利侵害行為を停止し、1億2000万元および合理的な権利行使のための費用を連帯して賠償するよう求めた。2020年6月10日、広東省高級人民法院は、4被告が権利侵害行為を停止し、華魯恒昇社が原告に8000万元を賠償し、寧波遠東社と寧波設計院社がそのうちの4000万元について連帯して賠償責任を負うという一審判決を下した。

Continue Reading 登録資料を特許権侵害と判定するための主要な証拠として 8000万元の賠償額を判決 ——メラミン生産システムおよび生産プロセスにかかる特許権侵害事件

著者:邰紅,韋嵥(知的財産省)

法律要点:

  1. 医薬化合物塩形態の公開充分の判断
  2. 医薬化合物塩形態の進歩性の判断

第一部分 係争特許

本件特許は、国際非特許薬品名称「エルトロンボパグ」に関わります。エルトロンボパグは、TPO受容体作動薬として、血小板産生の亢進及び慢性免疫性血小板減少症(異常の血小板数と表れ、ITPと略称される)の治療に用いられます。エルトロンボパグは、GSK社により発明・開発されており、現在、NOVARTIS社が本件特許を含めて全ての権益を取得しました。エルトロンボパグは、2017年12月に中国医薬品監督管理局により許可され、商品名称:Revolade®で発売され、ITPの治療に用いられます。Revolade®は、2019年8月に国家医療保険償還医薬品リスト(NRDL)に入れられました。当該医薬品の2020年の販売金額は世界中で17億USドルを超え、増加幅が20%を超えました。
Continue Reading 医薬化合物塩形態の公開充分及び進歩性の判断 ——エルトロンボパグ(エタノールアミン)塩に関する無効審判案件の評述