著者:毛琎(知的財産)

 

 

 

 

一、事件の概要

中国は、2001年より排ガス基準を導入してから、5段階(国5)を経てまもなく第6段階(国6)を適用するようになる。各段階で採用される排ガスの還元技術が全く同じではない。本事件に係る2つの係争特許は、正に排ガス浄化機能に用いられる計量ポンプユニットを特許請求し、かつ、国5基準適用の排ガス還元技術に関わっており、国6基準にこれらの技術が採用されていない。排ガス基準が全面的に国6時代に入ると、両特許が保護する国5基準に係る計量ポンプユニットが全て淘汰されることになる。そのため、本事件は、特許権者である原告にとって一定の時効性があり、全面的に国6時代に入る前に勝訴しないと、係争特許の技術がそのまま淘汰され、係争特許の価値が実質的にゼロになる。

本件において、金杜は威孚力達会社を代理して原告のEmitec会社の2件の係争特許に対して権利非侵害の抗弁を行い、その結果、2件とも威孚力達会社に有利な結果を得た。それと並行に、金杜は威孚力達会社を代理して相手の2件特許に対して無効審判請求を提起し、無効審決、一審の行政訴訟手続きを経て、そのうちの1件に対して1つの独立請求項を成功に無効とし、もう1件は有効に維持されたが、金杜の代理人が立てた専門的、巧みな訴訟戦略によって、2件特許の行政訴訟の結果は、いずれも、権利非侵害の抗弁の有利な結果に対して重要かつ肝心な作用を果たした。

二、事件の経緯

1、行政訴訟の結果、1件特許(以下、係争特許1という)が有効に維持され、もう1件(以下、係争特許2という)の独立請求項1が無効とされた。

係争特許1の無効審理において、国家知識産権局は、まず、係争特許1における「一部品から成るセントラルプレート(40)には、前記計量ポンプ(2)と前記予混合装置(39)が少なくとも組み込まれる」という構成要件が、計量ポンプユニットにおける「予混合装置」は「一体成型」された「一部品」であることを意味すると認定し、この上で係争特許1が従来技術と異なり、新規性及び進歩性を具備すると認定した。その後の行政訴訟において、裁判所は、国家知識産権局の認定を認め、該無効審決を維持した。

係争特許2の無効審理において、国家知識産権局は、係争特許の請求項の技術案が従来技術と異なり、特許法第22条第3項に規定する進歩性を具備すると認定したため、係争特許2を有効に維持した。一方、係争特許2のその後の行政訴訟において、裁判所は証拠の対比などを行った上、請求項1が進歩性を具備しないと認定した。一方、無効審決では、従属請求項2~12が新規性及び進歩性を具備すると認定された理由は、従属先の独立請求項1が新規性及び進歩性を具備するだけである。したがって、係争特許2の請求項2~12が進歩性を具備するかについて、裁判所は、国家知識産権局が改めて審査すべきであると認定した。

2、行政訴訟の結果に基づいて、民事権利侵害訴訟における特許権非侵害の抗弁に有利な結果を得た。

前述した行政訴訟を基に、裁判所は係争特許1と2の民事事件を引き続き審理した。

係争特許1は有効に維持されたため、裁判所は、被疑侵害製品について検証を行い、対比した後、被疑侵害製品の予混合装置は、部品が取り外し可能な構造であるため、係争特許1に限定の「一体成型」の一部品ではないと認定した。即ち、係争特許1の「一部品から成るセントラルプレート(40)には、前記計量ポンプ(2)と前記予混合装置(39)が少なくとも組み込まれる」という構成要件と同一でもなく同等でもないため、被疑侵害製品が係争特許1の請求項1の保護範囲に入っていないと認定した。更に、被疑侵害製品は、係争特許1の請求項2~21の保護範囲にも入っていない。そのため、裁判所は被疑侵害製品が係争特許1の全ての請求項の保護範囲に入っていないと認定した。

係争特許2について、金杜は、威孚力達会社を代理して、本件訴えを却下すべきである旨の関連意見を裁判所に提出した。具体的に、金杜は、「最高人民法院による法律適用を統一し類似事件の検索を強化する指導意見」第2条には、「人民法院は事件を審理する際以下の状況のいずれかに該当する場合、類似事件の検索を行わなければならない。…(二)明確な裁判ルールが欠如し、又は統一な裁判ルールが未だ形成されていない場合…」と規定され、本事件が上記状況に該当することを説明するとともに、最高人民法院の(2019)最高法知民終589号事件(以下、589号事件という)を提出し、本事件が589号事件の判決を参照することを陳述した。589号事件にかかる一審行政訴訟において、係争特許は、独立請求項1と12が進歩性を具備しないと認定されたが、従属請求項が進歩性を具備するかについて判断されず、更に、係争特許の独立請求項1と12が進歩性を具備しないことを理由に、請求項1~12の効力が不安点な状態にあると認定され、訴えを却下するよう裁定された。その後最高人民法院まで上訴されたが、最高人民法院は一審結論を維持した。それに、最高人民法院は、「従属請求項2~11が進歩性を具備する理由は、その従属先の独立請求項1が進歩性を具備するためだけであり、したがって、請求項1が進歩性を具備しない場合、从属請求項2~11が進歩性を具備すると認定することができない。そのため、係争特許の請求項1~12の効力が既に不安定な状態にある」とわざと説明した。金杜の上記努力により、係争特許2に係る権利侵害事件において、裁判所は、最終的に、金杜代理人の関連意見を認め、係争特許2の権利侵害訴訟を却下するよう裁定した。

三、金杜代理人の考え及び貢献

本事件において、金杜代理人の戦略は、客観的な制限により2件の係争特許の全ての請求項について権利非侵害に該当する旨の判決を実現することができないとしても、巧みな訴訟戦略により、威孚力達会社に有利な訴訟結果という最終的な目標を実現することである。この出発点に基づいて、金杜代理人は、①原告の係争特許が時効性に制限されているため、原告の訴訟請求を却下することを裁判所に申請し、原告が国5基準の間に訴訟時間の面で非常に従動的な状態に陥ること;②無効戦略を立てるとき、無効審判手続きで肝心な構成要件をターゲットとして、権利非侵害の抗弁に有利な解釈を得るという2つの面から訴訟戦略を考慮した。

1、無効戦略を立てたとき、両方の準備をし、係争特許1を成功に無効しないとしても、肝心な構成要件について権利非侵害の抗弁に有利な官方の解釈を得る。

一方、金杜代理人は巧みな無効戦略を立てた。係争特許1について、権利非侵害の抗弁を行う難点は、請求項の1つの肝心な構成要件に異なった意味を有し、この構成要件への異なる理解は、権利侵害が成り立つかに直接に影響する。そのため、係争特許1に対して無効審判を提起した際、意図的に異なった意味をもつ肝心な構成要件を攻撃し、国家知識産権局は権利を有効に維持したが、権利非侵害に有利な解釈を得た。

他方、金杜代理人は、事件を順調に進まさせるためのプロセス変更を申請した。侵害事件を審理する裁判官が該構成要件の異なる理解をよく分かるように、行政訴訟事件が権利侵害事件を審理する合議廷により審理されることを申請し、許可された。そのため、主審裁判官は、行政事件を審理したとき肝心な構成要件の異なる理解が従来技術と区別できるか、及び権利侵害に該当するかに対する重要性を十分に分かる。最終的に、係争特許1の有効性を維持するとともに、権利非侵害の判決を下した。

2、原告の係争特許は技術の時効性に制限されていることから、従属請求項の効力が確定できない行政訴訟結果を結合して、類似事件の検索に基づいて、原告の訴訟請求を却下することを裁判所に申請する。

一方、係争特許2の一部請求項が既に無効とされる結果に基づいて、金杜代理人は権利侵害訴訟を却下する申請を提出した。係争特許2について、原告はその独立請求項及び従属請求項をもって威孚力達会社の製品が権利侵害になることを提訴した。一審の行政訴訟は、係争特許2の有効性を維持する無効審決を覆し、独立請求項1が進歩性を具備しないと認定するとともに、国家知識産権局が改めて無効審決を下すことを判決したが、従属請求項が進歩性を具備するかについて明確に評価しない。この場合、金杜は、係争特許2が安定性に欠けていることを理由に、民事権利侵害訴訟を審理する裁判所に民事事件の訴訟を却下する申請を提出した。

他方、精確な類似事件の検索により典型的な裁判書をもって合議廷が従属請求項の効力の不確定性への考慮を打ち消した。上記訴訟を却下する申請について、合議廷は、民事事件の原告が、同時に独立請求項及び従属請求項をもって権利侵害を主張したが、行政判決において従属請求項が進歩性を具備するかについて評価しなかったことを懸念している。そのため、金杜は十分な調べ、研究を行い、その結果、本事件の状況と一致する最高人民法院の先行判決を見つめ、最高人民法院の類似事件検索に関する指導意見に基づいて原告の訴訟請求を却下する申請を提出し、合議廷に認められた。

上述を纏め、本両事件は、異なる方式により無効プロセスを結合して有利な権利非侵害の判決/訴訟を却下する裁定に達し、無効プロセス及び特許侵害民事プロセスの配合に示唆を与えている。