著者:李輝 龐淑敏(知的財産)
今年4月26日に国家知識産権局から公示された2021年度特許復審・無効十大審判事件のうち、電気分野に関わる事件が二件ある。二件のうち、1件は集積回路配置図の取消に関するものである。これらの事件は、社会的影響が大きく、焦点となる問題が典型的であることから、十大事件として選出されており、これらの具体的な事件における国家知識産権局復審・無効審理部の判断は、将来の実体審査及び無効審判に対して大きな影響を与えるものと考えられる。とりわけ、類似の事件においてそれを援用・活用することもできると思われる。
ここでは、これらの2つの事件の経緯及びその焦点問題を簡単に紹介する。
一、 「画像収集によりネットワーク接続を取得するデータ伝送方法及びそのシステ ム」発明特許無効審判事件(無効審決第 33159 号)
特許権者:K社
無効請求人:Z社
特許番号:ZL201010523284.4
審査結論:特許権が無効と宣告された
本事件は、現在日常生活で広く利用されているQRコード読み取り技術に関するものであり、無効審決は、無効請求人が無効請求の取り下げを申請した後の職権審査や請求項の解釈などを含む焦点問題に関する。
(1) 事件経緯の紹介
係争特許は、画像識別分野に関し、特に自動シンボル画像の識別・読み取り方法及び装置、即ち現在日常生活で一般的に使用されているQRコード技術の技術案に関するものである。係争特許の技術案では、QRコード画像に含まれるネットワーク識別情報を検証するために少なくとも3組のチェックコードを設定し、検証が成功した場合にのみネットワーク識別をデータ伝送に使用する。係争特許の記載によれば、先行技術に比べ、識別・読み取り作業を迅速に完了し、識別・読み取り効率を向上させるという目的を達成することができる。
無効請求人であるZ社は、2017年5月に係争特許に対して無効審判を請求し、特許復審委員会は2017年7月18日に口頭審理を行い、2017年8月21日に特許権者から無効請求人と和解したことを説明した意見書、及びライセンス契約の写しを受領した。
一方、第三者であるZK社は2017年9月1日に、特許権者は2017年9月5日にそれぞれ特許権者の変更を理由に手続中止請求書を提出し、国家知識産権局は2017年9月18日及び2017年11月28日にそれぞれ手続中止請求を未提出とみなす通知を発行した。
無効請求人であるZ社は、2017年9月22日に、無効審判請求の取り下げを申請した。特許権者であるK社は、2017年12月8日及び12月25日に、第三者であるZK社と特許権者の変更を行わないことに合意したため手続を中止する必要がないことを報告した意見書を提出し、手続中止請求の取り下げを申請した。
2018年1月30日に、国家知識産権局は、係争特許のすべての請求項1~58が進歩性を具備しないため無効と宣告する無効審決第33159号を下した。
K社は、国家知識産権局が下した第33159号決定に不服があり、2018年4月16日に北京知識産権法院に行政訴訟を提起し(事件番号:(2018)京73行初3582号)、北京知識産権法院は2020年7月9日に開廷審理を行い、同年7月末に無効審決を維持する旨の一審判決を下した。その後、K社は最高人民法院まで上訴し、同法院は一審判決を支持する旨の二審判決を下した。
(2) 本事件の焦点問題についての検討
- 無効審判請求の取り下げを申請した後の職権審査について
この典型的な事件の無効審判手続きにおいて、合議組は2017年7月18日に口頭審理を行った。無効請求人であるZ社は、2017年9月22日に無効審判請求の取り下げを申請し、合議組は2018年1月30日に、係争特許のすべての請求項1~58が進歩性を具備しないため無効と宣告する無効審決を下した。
無効審判請求において、例えば、無効請求人と特許権者が和解に合意した場合など、無効審判請求を取り下げる必要があるとき、特許法実施細則の規定に基づいて無効審判請求人が無効審判請求を取り下げることができる。しかし、実務上、無効請求人が無効審判請求の取り下げ申請を提出した場合、国家知識産権局は、必ずしもその申請に基づいて審理を終了し、結案通知書を出すとは限らない。
特許法実施細則第72条には、次のように規定されている。
「特許復審委員会が決定を下す前に、無効請求人がその請求を取り下げ、或いはその無効審判請求が取り下げられたと見なされる場合は、無効審判請求審査手続きは終了するものとする。ただし、特許復審委員会は既に行った審査で特許権の無効又は一部無効を宣告する決定を下すことができると考える場合は、審査手続きは終了しないものとする。」
さらに、最新版の審査指南第四部分第一章2.3節では、次のように明確に記載されている。
「 2.3 請求の原則
復審手続き及び無効審判手続きは、いずれも当事者による請求に基づいて開始されるものとする。
請求人は、特許復審委員会が復審請求又は無効審判請求審査決定を下す前に、その請求を取り下げた場合には、その審査手続きは終了するものとする。ただし、無効審判請求について、特許復審委員会は、既に行わった審査で特許権の無効又は一部無効の決定を下すことができると考える場合を除く。
請求人は、審査決定の結論が既に宣告されたか、若しくは書面による決定が既に発行された後に請求を取り下げた場合には、審査決定の有効性に影響を及ぼさないものとする。」
したがって、特許法及びその実施細則並びに審査指南の関連規定によれば、請求人は、自らの意思で無効審判の請求を取り下げる場合、無効審判請求審査決定を下す前に取り下げないと、開始された審査手続を終了させる可能性がない。請求を取り下げたとき無効審決が既になされている場合は、無効審決が発行されていなくても、その時点で特許権が有効か無効かを問わず、審査手続は終了しない。さらに、請求を取り下げたときまだ無効審決がなされていなくても、既に行われた審査に基づいて特許の無効又は一部無効の決定を下すことができれば、開始された審査手続は終了することはない。つまり、既に行われた審査で無効の決定を下すのに十分でない場合、又は無効審決が特許権の有効性を維持するものである場合にのみ、手続が終了することになる。
この典型的な事件の無効審判手続きでは、無効請求人であるZ社が2017年9月22日に無効審判請求の取り下げ申請を提出し、無効請求人が取り下げ申請を提出した時点ではまだ無効審決がなされていなかった(無効審決がなされたのは2008年1月30日である)。したがって、取り下げ申請のタイミングは、特許法実施細則第72条第2項の要件を満たしている。しかし、合議組は、口頭審理により既に係争特許をすべて無効と宣告する決定を下すことができたため、開始された審査手続を終了させず、審理を継続し、最終的に係争特許をすべて無効と宣告する決定を下した。
弊所コメント:「当事者処分権主義」は、無効審判手続きにおける基本原則であり、これに基づいて、無効請求人は、無効審判請求の範囲、理由及び証拠の全部又は一部を放棄することができるが、一定の状況では、合議組は、「職権による審査」することができることにも留意すべきである。「職権による審査」は、具体的な事件を審理する際の無効審判理由の主導的変更や証拠の援用だけではなく、無効請求人がその請求を取り下げ、或いはその無効審判請求が取り下げられたと見なされる場合の「無効審判手続きの終了」に対する処理も関わっている。これは、社会的公正及び国民の正当な権益を守るためのさらなる配慮である。
したがって、当事者が交渉・折衝中であり、実質的な進展が見込まれる場合には、交渉進展と無効審判進展とを効果的に調整し、請求の取り下げを申請する時期を適切に選択する必要がある。必要であれば、事前に合議組と連絡を取り合い、口頭審理の延期を申請することもできる。また、和解交渉のために当事者に一定の期間を下すとともに、審決を延期するよう合議組に申し立て、交渉の進捗状況をタイムリーに合議組に連絡することもできる。
- 請求項の解釈及び技術示唆について
口頭審理において、特許権者は、1) 係争特許のチェックコードは、検証機能、及び画像の鮮明さの判断の機能を有しており、証拠2のQRコードのファインダーパターンは係争特許のチェックコードと同等ではない、2) 証拠2のファインダーパターンは位置の判断にのみ用いられており、係争特許のチェックコードの役割とは明らかに異なり、技術示唆はない、と主張した。
これについて、合議組は、以下のように認定した。特許明細書の段落0030の記載によれば、該チェックコードは、位置決めが正確かどうかを判断することで、画像を鮮明にするためであることを確定できる。したがって、係争特許のチェックコードは、証拠2のQRコードのファインダーパターン機能と全く同じである。同時に、証拠2に開示された構成要件の役割は、本特許と同じであり、いずれも、ファインダーパターン又は画像におけるチェックコードによって画像中のデータ情報を正しく位置決め、識別するために用いられるものであるから、画像中のネットワーク識別を如何に正しく識別するかに直面したとき、証拠2には、対応する技術示唆が示されている。
弊所コメント:請求項の構成要件を正しく解釈することは、請求項の保護範囲を特定し、新規性及び進歩性を判断する上で非常に重要なプロセスである。請求項の構成要件を解釈するには、請求項の文言の説明に基づき、明細書に記載されている関連実施形態と合わせて理解すべきである。同時に、引用文献に開示された技術的手段と構成要件による役割がいずれも同じである場合、引用文献は対応する技術示唆を与えるものと考えるべきである。
二、「画像センサCS3825C」集積回路配置図設計の専有権取消手続き事件(審決第6号)
専有権者: X社
取消意見提出者:R社
登録番号:BS.175539928
審査結論:専有権を有効に維持する
この典型的な事件は、名称が「画像センサCS3825C」である集積回路配置図設計に関するものであり、集積回路配置図設計の保護対象、独創性の審理範囲、独創性の判断基準及び方法、最初の商業利用の日から2年以内に登録を申請する判断基準などを含む焦点問題に関する。
(1) 事件経緯の紹介
この典型的な事件は、名称が「画像センサCS3825C」であり、登録番号がBS.175539928であり、専有権者がX社である集積回路配置図設計の専有権に関するものである。
2020年5月19日、R社(以下、取消意見提出者)は該配置図設計専有権について国家知識産権局に集積回路配置図設計専有権の取消意見書を提出した。
該取消意見書において、本配置図設計は最初の商業利用の日から2年を超えて国家知識産権局に登録を申請したため、「条例」第17条の規定に適合しておらず、専有権者が声明した3つの独創性部分のうち、独創性部分1及び独創性部分2が公知の通常の設計に該当したため、本配置図設計の独創性部分1及び独創性部分2は「条例」第4条の規定に適合しておらず、独創性部分3がセンサ機能信号の出力を持たず、電子機能を発揮せず、集積回路の定義に適合しないことを主張した。
合議組は、2021年4月26日に口頭審理を行い、口頭審理後、R社は、配置図設計専有権の登録申請中、侵害訴訟中、本取消手続きの意見陳述中、専有権者が随意に独創性の部分を追加、変更することは認められないと更に主張した。
口頭審理の結果、最終的に合議組は次のように認定した。
1) 本配置図設計は、条例で定義された集積回路に該当し、「集積回路配置図設計保護条例」第2条第(一)項の規定に適合している。
2) 集積回路配置図設計専有権に関する侵害訴訟及び専有権取消手続きにおいて専有権者が主張した独創性部分に大きな変化はなかったから、専有権者が侵害訴訟及び専有権取消手続きにおいて新たに追加した独創性部分3は認められるべきである。
3) 独創性部分2が対応する配置図設計は、証拠14の従来設計と同一であり、創作者がこのPAW3305の配置図設計に接触した可能性があるから、創作者自らの知的労働の成果ではなく、独創性がない。また、独創性部分1及び独創性部分3は、既存の証拠によって公知の通常の設計であることを証明するには十分ではないため、独創性があり、「集積回路配置図設計保護条例」第4条の規定に適合している。
4) 本配置図設計の最初の商業利用の日がその専有権の登録申請の日から2年以上経過していることを示す証拠はなく、「集積回路配置図設計保護条例」第17条の規定に適合しないという取消意見提出者の主張は成立しない。
(2)本事件の焦点問題についての検討
- 集積回路配置図設計の保護対象
「集積回路配置図設計保護条例」第2条には、次のように規定されている。
「本条例の以下の用語の意味。
(一)集積回路とは、半導体集積回路、即ち半導体材料を基板として用い、基板の内部又は基板の表面に少なくとも1つの能動素子を有する2つ以上の素子及び一部若しくは全部を接続する回路が集積しており、一定の電子機能を有する中間製品又は最終製品をいう。
(二)集積回路配置図設計(以下、配置図設計という)とは、集積回路のうち少なくとも1つの能動素子を有する2つ以上の素子及び一部若しくは全部を接続する回路の三次元配置、又は集積回路を製造するために準備された上述の三次元配置をいう。…」
R社は、取消手続きにおいて、該配置図設計の独創性部分3に係るSENSORモジュールの周辺画素は、センサ情報の出力がなく、電子機能を果たしていないため、独創性部分3が集積回路の定義に適合しない、と主張した。
合議組は、以下のように認定した。「集積回路配置図設計保護条例」が、その保護下にある集積回路と集積回路配置図設計を定義し、集積回路への定義は、チップに含まれる一部の素子やモジュールではなく、チップ全体を対象としている。製品全体として、半導体基板に形成された少なくとも1つの能動素子と、相互接続配線とを含むとともに電子機能を果たせる場合、この条例で定義される集積回路に該当する。本事件では、半導体基板に形成されたSENSORモジュール、PGAモジュール及びADCモジュールなどを含む画像センサに関し、SENSORモジュールは複数のCMOS能動素子を有し、これらのモジュールは配線を介して相互に接続されており、信号を収集して画像情報を処理する機能を果たすため、条例で定義された集積回路に該当する。
弊所コメント:以上のことから、「集積回路配置図設計保護条例」における集積回路及び集積回路配置図設計の定義が明確であり、特に集積回路については、集積回路の材料、素子の種類、接続とその機能など、複数の角度から明確に定義されており、この定義は、保護の対象である集積回路の定義であって、その構成素子の定義ではなく、その独創性の定義でもない。集積回路が全体として前述の定義に適合する限り、対応する配置図設計は集積回路配置図設計保護の対象となり、正当な保護対象である。
- 独創性部分の審理範囲
この典型的な事件では、専有権者は3つの独創性部分を主張し、そのうち独創性部分1と2は登録申請時に声明されたものであるが、独創性部分3は登録申請時に声明されず、専有権侵害訴訟及び取消手続き中に専有権者によって新たに追加されたものであった。したがって、この新たに追加された部分が認められるかどうか、また、専有権取消手続きにおける審理の範囲に入るかどうかが、本件の焦点の一つとなっている。
「集積回路配置図設計保護条例」第16条には、次のように規定されている。
「配置図設計の登録申請には、以下のものを提出しなければならない。
(一) 配置図設計登録申請書。
(二) 配置図設計の複製又は図面。
(三) 配置図設計が商業利用に投じられている場合、その配置図設計を含む集積回路のサンプルを提出する。
(四)国務院知識産権行政部門が定めるその他の資料。」
「集積回路配置図設計保護条例実施細則(以下「実施細則」という)第14条には、次のように規定されている。
「第14条 複製又は図面
条例第16条の規定に基づき提出された配置図設計の複製又は図面は、以下に掲げる要件を満たさなければならない。
(一) 複製又は図面の紙媒体は、少なくとも当該配置図設計を使用して生産される集積回路の20倍以上に拡大されなければならない。申請者は、当該複製又は図面の電子媒体を同時に提供することができる。電子媒体による複製又は図面を提出する場合は、当該配置図設計のすべての情報を含み、かつファイルのデータ形式を明記しなければならない。
(二)複製又は図面の紙媒体が大量であるときは、通し番号を付し、目録を添付しなければならない。
(三)複製又は図面にはA4規格の用紙を使用しなければならず、A4より大きい場合は、 A4規格になるように折り畳まなければならない。
(四)複製又は図面には文字による簡単な説明を添付し、当該集積回路配置図設計の構成、技術、機能及びその他説明の必要な事項を説明することができる。」
したがって、現行の「集積回路配置図設計保護条例」及び「集積回路配置図設計保護条例実施細則」では、集積回路配置図設計を申請する際、独創性の声明を申請の要件の一つとして要求することがなく、即ち、独創性の声明をしないと登録申請を行うことができないことを要求しない。つまり、申請者が登録申請時に独創性の声明を行わず、その後の手続きにおいて独創性を声明することが認められるものである。しかし、実務では、申請者が登録申請時に独創性の声明を行ったが、その後の専有権確定過程や侵害訴訟の過程で独創性の声明を変更するケースもあり、この場合どのように判断するかは明らかではない。
これについて、合議組は、登録申請時の独創性の声明に加え、専有権確定や侵害訴訟手続きにおいて、専有権者が配置図設計に含まれる独創性部分を声明、主張することが一般的であり、登録手続き、初めての専有権確定手続き、初めての侵害訴訟手続きにおいて配置図設計専有権の独創性は確定し、その後の手続きでは減少するのみで、増加しないものである、と認定した。さらに、合議組は、専有権者が主張する独創性部分は客観的であるべき、主観的で繰り返して変更するものであってはならず、専有権者が各手続きにおいて主張する独創性部分は明らかに繰り返し変更し、公衆の合理的期待を超え、公衆の合法的利益を損なうと、その主張を認めるべきではない、と認定した。
この典型的な事件では、申請者が登録申請時に2つの独創性部分を主張し、その後の専有権確認手続き及び専有権侵害手続きにおいて1つの独創性部分を追加し、その後、専有権者がこれを変更しないまま手続を進めたものである。合議組は、配置図設計の専有権が登録申請された後、配置図設計の独創性部分に対する専有権者の主張は、最初の侵害訴訟から変わっておらず、公衆の合理的期待を超えるものではなく、公衆の正当な利益を損なうものでもなく、認められるべきである、と認定した。
弊所コメント:専有権者の独創性の主張について、現行の「集積回路配置図設計保護条例」及び「集積回路配置図設計保護条例実施細則」では、専有権者が登録申請時に独創性の声明を行うことを要求していないため、専有権者に独創性を主張する一定の柔軟性と自由度を与えるが、そのような柔軟性と自由度は恣意的なものではなく、制約されるものである。これにより、専有権者は、遅くとも最初の確認手続き又は最初の侵害訴訟手続きにおいて確定すべきものであり、その後任意に追加、変更することはできない。したがって、専有権者は、初めての確認手続き及び初めての侵害訴訟において各手続きの状況を総合的に考慮し、登録された配置図設計を分析し、配置図設計の独創性部分(独創性部分は、コア設計部分に関わってもよく、基本設計部分又は補助設計部分に関わってもよい)を客観的に主張するよう努め、その後の手続きにおいて実質的に変更することを控え、公衆の公益を損なうことなく自分の専有権をよりよく保護すべきである。
- 独創性部分の判断基準及び方法
「集積回路配置図設計保護条例」第4条には、次のように規定されている。
「保護を受ける配置図設計は、独創性を有しなければならない。即ち、当該配置図設計は、創作者自らの知的労働の成果でなくてはならず、かつその創作時に配置図設計の創作者及び集積回路の製造者に公知の通常の設計であってはならない。
保護を受ける通常の設計からなる配置図設計は、その組合せ全体が前項規定の条件に合致していなければならない。」
取消意見提出者は、専有権者が主張した本配置図設計の独創性部分1~3は、公知の通常の設計に該当し、独創性を有しないため、「集積回路配置図設計保護条例」第4条の規定に適合しないことを指摘した。
合議組は、独創性の判断において、配置図設計が従来の配置図設計と明らかに異なり、創作者自らの知的労働の成果に属し、かつ配置図設計の創作者及び集積回路の製造者にとって公知の通常の設計でない場合、独創性を有するものである一方、配置図設計は、従来の配置図設計と同じであり、かつ創作者が該従来の配置図設計に接触する可能性がある場合、創作者自らの知的労働の成果ではないため、独創性を有しない、と認定した。
具体的には、独創性部分1及び3については、合議組は、以下のように認定した。創作者又は製造者が集積回路の異なる設計において公知の設計原理を採用するが、異なる創造者又は製造者は、同じ設計原理を考慮しても、全く異なる配置図設計を創作でき、証拠14で開示された配置図設計は、本配置図設計の独創性部分1及び3の設計部分とは明らかに異なるため、本配置図設計の独創性部分1及び3に対応する配置図設計は、既存の証拠に対して創作者自らの知的労働の成果であるといえる。
また、独創性部分2については、合議組は、以下のように認定した。証拠14で開示された既存の配置図設計が、本配置図設計の独創性部分2と同一であり、かつ創作者が該PAW3305配置図設計に接触した可能性もあるから、独創性部分2に対応する配置図設計は、公知の通常の設計に該当し、創作者自らの知的労働の成果ではない。
弊所コメント:「集積回路配置図設計保護条例」の規定に基づいて、配置図設計の独創性要件の核心は、1)「独」立に創作するものであり、創作者自らの労働成果を反映したもの、2)「創」新性を有するものであり、配置図設計が公知の通常の設計ではないことである。したがって、独創性を判断するとき、この2つの側面から行う必要がある。つまり、配置図設計保護の要件を満たす配置図設計は、同時に上記2つの要件を満たさなければならず、どちらかの側面を満たさない場合は、配置図設計を保護してはならない。
具体的には、配置図設計が「創作者自らの労働成果」であるかどうかの判断は、主張された独創性部分が、創作者が接触できた他者の先行設計と同一/実質的に同一であるかどうかを判断する必要がある。接触する可能性がない場合、又は2つの設計が異なる場合、主張された独創性部分は創作者自らの労働成果であり、一方、2つの配置図設計が同一又は実質的に同一であり接触する可能性がある場合、主張された独創性部分は創作者自らの労働成果とは見なさない。主張された独創性部分が確かに創作者自らの労働成果である場合、さらに、公知の通常の設計であるかどうか、即ち、配置図設計が創作された時点で、配置図設計分野の教科書、技術辞典、技術マニュアル等の資料から取得できるかどうか、設計の基本原理に従って容易に想到できる設計であるかどうか、例えば、唯一の選択肢であるかどうか、を確認する必要がある。また、著作権と同様に、集積回路配置図設計は、特定の表現を保護するものであり、アイデア、プロセス、操作方法、数学的概念などには及ばないことに留意する必要がある。したがって、独創性部分を具体的に判断する際に、設計の基礎となる原理やアイデアの類似性ではなく、具体の設計の類似性を重点的に考慮する必要がある。
- 最初の商業利用の日から2年以内に登録申請する場合の判断基準
「集積回路配置図設計保護条例」第17条には、次のように規定されている。
「配置図設計が世界のいずれかの地域において最初に商業利用された日より2年以内に国務院知識産権行政部門に登録申請を提出していないものについては、国務院知識産権行政部門は登録を行わないものとする。」
この典型的な事件では、取消意見提出者は、本配置図設計と実質的に同一のCS3815ウェハ配置図設計が遅くとも2014年7月に初めて商業的に利用されたが、専有権者が2017年12月8日に国家知識産権局に登録申請を行ったので、申請日が最初の商業利用の日より2年を超えており、本配置図設計は条例第17条の規定に適合しない、と主張した。
合議組は、取消審査において、1つの配置図設計専有権が最初に商業利用された日より2年以内に登録申請を提出したかどうかの判断は、以下の2つの側面から審査する必要がある、と認定した。
1)商業利用に投じられている配置図設計が、該登録された配置図設計と同一又は実質的に同一であるかどうか。
2)該配置図設計専用権の登録申請日が、商業利用に投じられた配置図設計の最初の商業利用の日から2年以上経過しているかどうか。
合議組は、該配置図設計が、証拠におけるCS3815ウェハ配置図設計と明らかに異なり、CS3815ウェハ配置図設計と同一でも実質的に同一でもないため、本配置図設計の最初の商業利用の日が、その専有権の登録申請の日から2年以上経過していることを証明する証拠がない、と認定した。
弊所コメント:「集積回路配置図設計保護条例」の規定に基づいて、配置図設計は世界のいずれかの地域において最初に商業利用された日より2年以内に登録を行わなければならず、その期限を過ぎて登録申請がなされた場合は登録されないものである。したがって、集積回路配置図設計が完了した後、権利者は、商業計画や実情に応じて、適切かつ合理的に登録申請の日程を決定する必要がある。同時に、専有権者は、各配置図設計の商業化状況について、関連資料及び情報を保管、管理し、登録された配置図設計が取消手続きで争われた場合、対応する反証を提出して反論できるように準備すべきである。